<金口木舌>日記の日


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 もうすぐ1年の折り返し。年頭に立てた誓いや抱負を忘れるころだ。三日坊主の代表格と言えば日記だろう。多くの方が挫折経験をお持ちではないか

▼評論家の秋山ちえ子さんは小学3年生から毎日書いていたが、6年生でやめた。弟がみんなに見せてしまったからだ。“いい子”だったため、日記が本音を吐ける場で、悪口や好き嫌いも書いていた
▼人に見せないというのが前提なだけに、公になると困ることもある。石川啄木も樋口一葉も「死んだら日記は焼くように」と遺言していた。評論家の中野好夫さんは日記を書かない主義で、「人間の過去とはすべて排泄(はいせつ)物である」として、死後、のぞき趣味の餌食になりたくないと言い切った
▼対照的なのが「私の望みは、死んでからもなお生き続けること」と書いたアンネ・フランクだ。隠れ家での生活をつづった世界一有名な日記からは、ナチズムの恐怖が少女の目を通して伝わってくる。願い通り、人々の心の中に生き続け、世界記憶遺産にもなった
▼アンネが日記を書き始めたのは1942年のきょう。13歳の誕生日に両親から贈られた日記帳に1ページ目を記した。2年2カ月後「じゃあまた」で途絶える記述は胸が詰まる
▼今、沖縄は歴史的な局面を迎えている。日々の動きを一人一人が生活者の目で記録していけば、財産になるに違いない。きょうは「日記の日」。