<金口木舌>巻き込まれる子どもたち


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 県庁前通りの歩道に大きなキノコが生えた(10日付「びっくり 巨大“かさ”」)。食用のニオウシメジ。サンダンカの花の下、ホウオウボクの切り株から高さ30センチ、30個ほどのかさを差す

▼街の真ん中、胞子はどこから飛んで来た? サンダンカの腐葉土に混じって来たようだという。その不思議な風景に、宮沢賢治の「どんぐりと山猫」に出てくるキノコを重ねる。「一本のぶなの木のしたに、たくさんの白いきのこが、どってこどってこどってこと、変な楽隊をやってゐました」
▼きのこの楽隊も収められた「宮沢賢治のオノマトペ集」(ちくま文庫)では独特の擬音・擬態語が楽しめる。その中の一つに「向ふからぷるぷるぷるぷる一ぴきの蟻(あり)の兵隊が走つて来ます」の一文も紹介される
▼蟻の兵隊を描いた「朝に就(つい)ての童話的構図」からの引用だ。寓話(ぐうわ)では、霧の降る青い羊歯(しだ)の森を守る蟻の歩哨(ほしょう)に2匹の蟻の子が伝える。「昨日はなかった真っ白な家ができた」
▼歩哨は子どもに“目的不明の大きな工事”を陸地測量部へ伝えるよう命じた。「おまへたちはこどもだけれども、かういふときには立派にみんなのお役に立つだらうなあ」。結局、真っ白な家の正体はキノコと分かり、子らは大笑いして一件落着
▼70年前、日本は勝つと信じて戦争に巻き込まれ、笑い顔を奪われた子どもたちを思い、胸が詰まる。あと10日で沖縄は「慰霊の日」。