<金口木舌>戦後の「初心」


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 作家城山三郎さんが著書「少しだけ無理をして生きる」(新潮文庫)で、人の魅力は「初心」にあると語っている。例えば仕事にせよ、何事も初めは全てにおいてぎこちない。おどおどしながら恥をかきつつ、ひたむきに取り組む。そんな初々しさが人の心を打つと

▼うるま市の石川歴史民俗資料館で企画平和資料展「戦後復興の地 うるま市」が開かれている。一角に戦後沖縄で「笑い」を発信した小那覇舞天さんが、県内ではおなじみのエピソードと共に紹介されている
▼収容所という戦後の出発地点で、家族を失い、涙も枯れ果てた人々に小那覇さんは、声を掛けて回ったと説明にある。「生き残った者が、元気を出さないでどうしますか。命のグスージサビラ(お祝いをしましょう)」
▼打ちひしがれた人からは「何がお祝いか」と罵声も浴びた。残った者は、失った命の重みに苦悩する。一方でこれから生きるつらさもあることを小那覇さんは知ってのことだっただろう
▼「生き残った人たちが元気を出して楽しまないと、死んだ人たちが救われない」。地道な訴えは共感を呼び、喪失感から多くの人々を解放した
▼戦後の「初心」は、生き抜く大切さを説くことから始まった。「笑い」の先人が残した至言から70年。再び危うさが漂う時代にあっても、戦後沖縄の「初心」に思いをはせ、生きる糧を得る。