<金口木舌>人間の住んでいる島


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 大学生のころ、伊江島で阿波根昌鴻さんにお会いした。聖書を引用し、土地接収を迫る米兵に抗議したという話が忘れ難い。強権に抵抗するため、神の言葉が持つ力を借りた。闘う民衆の知恵である

▼土地闘争を記録した写真も紹介してくれた。「米軍と闘うときの証拠」として撮ったという。土地を奪われた島人(しまんちゅ)の姿が痛々しい。写真集を1冊買った。「人間の住んでいる島」という書名であった
▼「証拠」として撮られた写真の展示会が那覇市民ギャラリーで開かれている。闘争に焦点を当てた写真集とは異なり、島人たちの笑顔が印象深い。そういえば闘争を率いた阿波根さんも30年前、笑顔で大学生を迎えてくれた
▼全戦没者追悼式のあいさつを聞きながら、伊江島の写真を思った。島人の笑顔は、生まれ島に根差す民衆の力を表現している。その前では、為政者が発する型通りの言葉も空疎に響く
▼安倍首相のあいさつに「今を生きる私たちが平和と安全と自由と繁栄を享受していることをかみしめたい」とあった。昨年とほぼ同じ文句をなぞった首相に聞きたい。「沖縄は平和と安全を享受しているのか」と
▼今かみしめるべきは、沖縄が「人間の住んでいる島」という事実だ。「自由と繁栄」を得るための道具ではない。そう言い切り、歩んでいこう。阿波根さんが撮った島人たちの笑顔が導いてくれるはずだ。