<金口木舌>アンパンマンの心


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 週末の浦添市美術館は親子連れでにぎわっていた。開催中の「やなせたかしの世界展」だ。会場に初代アンパンマンが展示されている。姿は人間で腹の出たおじさん。おなかからあんパンを取り出す

▼やなせさんがアンパンマンを考えたきっかけは、従軍中の空腹体験にある。1940年に徴兵され、43年に中国・福州へ出兵した。西部第73部隊には沖縄出身者も随分いたという。敗戦を聞いた翌日からは、武器がなくても戦えるとして沖縄出身者から空手を教わった(『ぼくは戦争は大きらい』)
▼暗号班だったため弾1発も撃たずに敗戦を迎えたが、空腹には耐えられなかった。1日2回の食事は薄いおかゆ。人生で「空腹ほど辛(つら)いことはない」と記した。そこから、顔をちぎって分け与えるヒーローが生まれた
▼正義の味方はまず飢える人を救うことだと、やなせさんは主張する。俳優の菅原文太さんも生前、沖縄でこう訴えた。「政治の役割は二つ。国民を飢えさせないこと。絶対に戦争をしないこと」。共通する思いがある
▼アンパンマンは決して敵を殺さない。悪役ばいきんまんを遠くに飛ばすだけ。「自分と反対の考えの人や嫌な相手とも、何とかして一緒に生きていく」という願いが込められている
▼排除と抑圧の風潮が強まる今だからこそ必要な心持ちだ。アンパンマンは大人にも多くを教えてくれる。