<金口木舌>国民の理解


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 その言葉に耳を疑った。10日の衆院平和安全法制特別委員会で安倍晋三首相は、安全保障関連法案について維新の党などの対案が併せて審議されたことを挙げ「相当(国民の)理解が深まった」と述べた

▼この日の答弁で焦点の一つだった「存立危機事態」の条件が以前の説明より緩くなるなど、定義自体のあいまいさも露呈した。それなのに一体何の「理解が深まった」と言うのか
▼毎日新聞の4、5両日の世論調査で、安保関連法案の国民への説明が「不十分だ」との回答が81%に上った。読売新聞の3~5日の調査でも、法案説明が十分とは思わないが80%に上り、法案成立に「反対」は63%と上昇した
▼同じ毎日新聞の調査で安倍内閣の不支持率は43%で、2012年末の内閣発足後初めて不支持が支持を上回った。朝日新聞の6月下旬の調査では支持率は39%にまで下落した。安倍政権への逆風が収まったようにはどうにも見えない
▼1960年、安倍首相の祖父の岸信介首相は新日米安保条約を強行採決した。それを受けて国会周辺の反対運動は抗議デモとなり、死者も出たことで岸内閣は退陣を余儀なくされた
▼安倍首相が国民理解が深まったと発言した日の夜、国会前で法案に反対する若者らが抗議し約1万5千人が集まった。55年前の祖父の退陣は、安倍首相にどういう教訓を残しているのだろうか。