<金口木舌>養う所を害せず


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 中国の学者、牛欠が追いはぎに遭い、衣類や牛車を奪われる。困った表情を見せないのを不思議に思う盗っ人に、牛欠は答える。「養う所を以って其の養う所を害せず」

▼中国の思想家列子の言葉から生まれた話として伝わる。衣類や家畜は生きる手段としては必要だが、それを得ることは生きる目的ではない。わが身が傷ついては元も子もないということだ
▼7日の沖縄市議会での質疑でのこと。普天間飛行場内に土地を所有する地主について市議が発言した。「多くの地主、全員ではないが、大多数は今、(土地を)接収されて喜んでいる」。6月30日にも県議会では米軍基地の「誘致運動もあった」との質疑があった
▼翁長雄志県知事の説く土地接収の歴史に反証する考えからだろう。作家百田尚樹氏の「基地の地主たちは年収何千万」との発言もあり、軍用地をめぐる発言が相次いだ
▼列子に習えば、物を奪われ、生きる目的を優先したとしても追いはぎ行為を是認してはいない。米軍占領下での基地の成り立ちを振り返れば、理不尽な前提は常に付きまとう
▼財産権の正当な主張でさえ、理不尽な前提を欠けば、誤解を導きかねない。百田氏発言は、その表れだろう。周辺諸国にせよ、国内にせよ、軋轢(あつれき)を論で解決するのが政治家の役割ならば、堆積された悲哀の歴史を投げ出しては「養う所を害する」。