<金口木舌>泡盛との対話


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 自宅で古酒を味わいたい。泡盛の一升瓶を買い込んで押し入れの奥で寝かし、熟成するのをじっくり待とう。家計に響かぬよう、小遣いが許す範囲で楽しむつもりだ

▼こんな時、ネット情報は頼りになる。専門のサイトは古酒造りに適した度数や銘柄、貯蔵法を指南してくれる。一通り読んで、あらためて思う。沖縄の大切な文化である泡盛との対話こそ古酒造りの極意である
▼古酒はまろやかな味だけでなく、芳醇(ほうじゅん)な香りも魅力である。ごく少量だが20年古酒を口にしたことがある。フルーティーな香りと言いたくなる。チョコレートにも似ている。もっといい言い回しがありそうだ
▼最後の琉球王・尚泰の四男、尚順は古酒の香りを雄ヤギのにおいに例えて「ウーヒージャーかざ」と随筆で記した。ヤギ小屋のにおいを知っている人なら想像がつこう。幅広く沖縄文化を論じた尚順の絶妙な表現である
▼県酒造組合が古酒表示の厳格化を決めた。3年以上貯蔵した泡盛を100%使わなければ、古酒を名乗ることができなくなる。業界の信頼回復に向けた決断であろう。古酒を守るためにもなる
▼尚順が「何処から見ても沖縄の宝物」と評した古酒は沖縄戦で大打撃を受け、業界は復活の努力を重ねた。表示だけではなく、先人が残した文化と向き合う姿勢にも厳しさが求められよう。熟成を待つ泡盛との真摯(しんし)な対話を続けたい。