<金口木舌>不安な夜の「あのさ」


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 「普通の家族が欲しかった」。自立するための施設で暮らす少女は言った。子どもは家庭を選べない。同時にその親の子ども時代を思う

▼貧困や暴力のため安心して暮らせない子どものためにNPOが運営する緊急避難先「子どもシェルター」が来春開所する。行政や福祉のはざまにあって行き場のない10代後半の女性が当面の対象だ。横江崇弁護士は「衣食住を安定させて修学や就労につなげたい」と語る
▼昨年、自立援助ホームを取材した。高校卒業で児童養護施設を巣立つが住む場所がない、中学を出たが家で暮らせない。事情を抱える少女が自立に向けてアルバイトし、生活する
▼夜、指導員の部屋。少女らが相談や雑談をしようと入れ替わり訪れる。扉の手書きのポスターには1人当たりの制限時間。明け方まで及ぶ日もある。助言するでもなく、指導員はじっと話を聞くことを大事にしていた。この役、スマホも果たせまい
▼温かい食事と眠る布団があり、不安な夜に「あのさ」と話す信頼できる大人がいる。そんなささやかな日常が当たり前でない子どもが多い。低い県民所得、高い失業や非正規雇用、離婚率。社会のひずみは一番弱い子どもに容赦なく向かい、当たり前を奪う
▼ホームの小さな畑に青々と植わっていたネギを頂いた。野趣あふれて優しい土の味に、大人の責任をしみじみと考えた。