<金口木舌>世界遺産


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 「明治日本の産業革命遺産」が世界遺産に登録された。8県に点在する23施設で構成されるが、九州への集中が明治政府立ち上げの藩閥を反映しているようで興味深い

▼幕末から明治にかけての重工業施設が中心で炭鉱や造船所の印象が強いが、実はその一つに山口県の松下村塾がある。伊藤博文や山県有朋ら明治維新の志士たちを輩出したことが、明治の革命に人材面から寄与したということか
▼ここで志士たちを育てたのが、最近のNHK大河ドラマでも焦点が当たった吉田松陰だ。天皇を敬い、外国勢力を追い払う尊皇攘夷(そんのうじょうい)の思想を説き、明治国家の精神的支柱にもなったとされる
▼松陰は「幽囚録」の中で朝鮮への侵攻・服従と併せて、独立国だった琉球国の日本への組み込みを説いた。その後の日本の朝鮮併合や琉球併合の歴史を見ると、明治政府の対外政策にも少なからず影響を与えたようだ
▼日本各地を遊歴し、各沿岸地の防衛状況も視察して回った松陰。大阪府南部の岸和田藩では、頻繁に出現する外国船に懸念を示し、海防の手薄さを繰り返し指摘したという
▼対中情勢でいたずらに警戒感をあおる昨今の論調と重なる。同じ山口出身で松陰の言葉をよく引用する安倍晋三首相。ただ松陰はこうも言った。「正義が我にあれば、どうして戦争を恐れる必要があろうか」。こんな思想は尊重しないでもらいたい。