<金口木舌>未来を築く力


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 放蕩(ほうとう)ざんまいの不良少年だった。自ら「悪人」を名乗り「ヤクザの仁義」を口にした。近年は「不逞(ふてい)老人」として社会を見詰めた。鶴見俊輔さんが亡くなった

▼2007年秋、都内で開かれた元「ベ平連」の集会で、少しだけ会話した。「大江さん頑張っているな」という一言が印象に残る。著書「沖縄ノート」の記述で裁判を闘っていた大江健三郎さんを気遣ったのだろう
▼日米開戦後、留学先の米国から捕虜交換船で帰国した。敗戦を予期したが「負ける側」に身を置いた。鶴見さん流の「ヤクザの仁義」である。軍属として赴いたジャカルタでは「敵を殺せ」の命令を恐れ、自死を覚悟した
▼沖縄戦を基点に日本を論じることを自らに課した。1996年に本紙に寄せたコラムで「6月23日に沖縄での終戦があったことの意味を、くりかえし自分に問いたい」と記している。それは日本全体の責任を問うものでもあった
▼98年の本土紙インタビューでは「戦後、日本は沖縄を切り離して繁栄した。どう考えてもおかしい」と断言し、沖縄独立や米軍基地の本土移転にも言及した。沖縄を置き去りにする日本の歩みを許さなかった
▼沖縄を「民主主義がよみがえる場所」と呼んだ。「未来を築く力がある」とも語り、そこに日本の可能性を見いだした。知の巨人は、県民のみならず国民全体にも重い問いを残した。