<金口木舌>しつけ


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 あれは平手だった。中学生のころだったか、後にも先にも父親から殴られたのはその一度きりだ。頬を張られて、頭にガンと響いたあの衝撃は今でも覚えている

▼宮古島で3歳の女児が暴行を受けて死亡し、その父親が傷害致死容疑で逮捕された。以前から妻への家庭内暴力や、子どもへの虐待の疑いが報告されていたにもかかわらず、幼子の死を避けられなかったことがやりきれない
▼父親は県警の調べに「しつけだった」と供述しているという。女児の兄の長男への暴力も前から確認されていた。「しつけ」という名の暴力が日常化していたのか。父親の頭に「虐待」の文字はなかったか
▼しつけの延長に虐待はあるのか。民法は親に子どもの監護と教育をする権利と義務を定めており、それに必要な範囲で懲戒、いわゆるしつけを認めている。中には子どもに暴力を振るっておきながら「親が子どものしつけをして何が悪い」と開き直る親も出てくる
▼しつけとの境界があいまいに見える虐待だが、実は明確な定義がある。児童虐待防止法は、けがをさせるか、その恐れのある暴行を児童虐待と定めている。だが家庭内にあって見えにくいという問題も付きまとう
▼逮捕された父親は何を思って子どもらに手を上げ続けたのか。そこには愛情はあったのか。そんなことの確認の代償が幼子の命では重過ぎる。