<金口木舌>未来を築く紙碑


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 「紙碑」という言葉を最近知った。紙と碑とは妙な取り合わせだ。世に知られていないことや、他界した人の業績を紹介した文章や本のことをいう。あまり定着していないためか、未掲載の辞書もある

▼広島の被爆体験者の手記を紹介する中国新聞の連載でこの言葉を見つけた。未来へ警鐘を鳴らす「原爆手記」を紙碑に例えている。それは被爆体験の風化を押しとどめる杭(くい)となろう
▼文字だけではない。広島市出身の漫画家こうの史代さんの代表作「夕凪(なぎ)の街 桜の国」は被爆体験でつながる3世代の家族を描き、話題となった。細やかな描線がつづる被爆者の悲しみや苦悩。これも広島が生んだ紙碑である
▼原爆漫画の金字塔「はだしのゲン」の作者で、2012年に亡くなった中沢啓治さんは、沖縄に関する作品を遺(のこ)していた。米統治にあえぐ沖縄住民を激しいタッチで描いた。それは広島と沖縄の痛みをつなぐ紙碑となった
▼そして沖縄。新しい沖縄県史に障がい者の戦争体験を収録する作業が進んでいる。戦争トラウマの苦しみにも触れる。新たな紙碑は、戦後70年を経ても沖縄戦の傷が癒えていないことを示すだろう
▼1発の原爆や砲弾を前にしては一切れの紙の力は限られよう。それでも証言を重ね、描くことで未来を切り開きたい。70回目の「8・6」が巡ってくる。平和の紙碑を地道に築く日としよう。