<金口木舌>平和への誓い


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 突然の拍手に安倍晋三首相は何を思っただろう。一瞬、目を泳がせた後、目を閉じた。まぶたとともに耳もふさいだように感じたのは筆者だけではないだろう

▼長崎が被爆して70回目の原爆の日。平和祈念式典で、田上富久長崎市長と長崎原爆被災者協議会会長の谷口稜曄さんは安保関連法案に触れ、懸念を口にした。参列者からは賛同の拍手が湧き上がった
▼谷口さんによる平和への誓いは1974年以来。2回した人は初めてという。熱線で背中を焼かれ、1年9カ月、生死をさまよった。すさまじい体験の告白に続く、安保関連法案を「許すことはできない」という言葉に胸を打たれた人は多いだろう
▼沖縄や広島ではヤジを浴びせられ、長崎では式典中に明確に批判を突き付けられた。だが首相はこの後、法案の必要性を重ねて強調した。施策を強行する姿勢に国民の異例の対応が相次いでいることを真摯(しんし)に受け止めるべきだ
▼法案を通せば、声に耳を傾けない政権の姿がより浮き彫りになる。70年前の9日、長崎に原爆を落としたB29が読谷の飛行場に緊急信号を発し着陸した。燃料が1分間しか持たない危険な状況だったが、さらなる悲劇は免れた
▼田上市長は平和宣言で沖縄戦にも触れ、戦争の記憶を忘れてはいけないと訴えた。多くの犠牲を出した地だからこそ粘り強く平和を発信する責務がある。