<金口木舌>>中2の夏休み


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 「中2の夏休み」の難しさを教育担当のころ、多くの教師から聞いた。1カ月半の休みを経て生徒は大きな変化を見せる。真面目だった子が夜出歩くようになったり、無邪気だった表情に陰りが見えたり

▼体が大人に変わりつつある中、心も不安定になる。大人に反抗的になる一方で、他人からどう見られているかを過剰に意識し、時にとっぴな行動に走る。教師の経験則では最も注意を要する時期なのだという
▼痛ましい調査がある。内閣府によると、18歳以下の自殺は夏や春の長期休暇が明けた時期に集中する。突出して多いのは9月1日だ。いじめや友人関係の悩み、環境の変化が精神的動揺を生むのだろうか
▼感受性が鋭くなるが故に得るものもある。お笑い芸人の又吉直樹さんはサッカーに明け暮れる少年だったが、中2で芥川龍之介の「トロッコ」を読み、小説にはまった。21年後の芥川賞につながる出会いである
▼太宰治の「人間失格」は100回は読んだという。思春期に誰もが持つ「人生とは」「人間とは」という問い掛けに、「じめじめと考えているのは自分だけだと思っていたら、ほかの人も、太宰も考えていた」と驚きを語る
▼夏休みも半分が過ぎた。いつか猛暑の日々を振り返り、後の人生につながったと思える出会いを得てほしい。大人の務めは異変に気付くアンテナを立てることだと心しつつ。