<金口木舌>赤い屍体、黒い屍体


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 NHK沖縄の戦後70年ソング「いのちのリレー」が連日流れている。歌うのはKiroroとHY仲宗根泉さんのユニット「さんご」。世代を超えてつながる命の賛歌は、今後も歌い継がれる定番曲になるだろう

▼歌詞に「赤い海、黒い空」と戦場を表す一節がある。モノクロで伝えられることの多い沖縄戦を、色でリアルに想像させてくれる
▼赤と黒。この色にこだわった画家がいる。シベリア抑留の作品で知られる香(か)月(づき)泰男だ。旧満州(中国東北部)で敗戦を迎え、シベリア送りの列車の中から線路脇に転がる死体を見る。「満人の私刑を受けて」生皮を剥がされた日本人だった。赤茶色で、人間の筋肉を示す解剖図のようだったという
▼帰国後、広島の原爆で真っ黒焦げになった死体の写真を見た時に、旧満州で見た赤い死体が浮かんだ。「一九四五年をあの二つの屍体(したい)が語りつくしている」と記した(『私のシベリヤ』)
▼黒い死体は被害者、赤い死体は加害者としての日本人を象徴している。香月は書く。「戦争の本質への深い洞察も、真の反戦運動も、黒い屍体からではなく、赤い屍体から生まれ出なければならない」
▼敗戦から70年。加害を語ることを「自虐史観」と呼ぶゆがんだ思考が強まっている。きょう首相が出す談話も、うわべの言葉ではなく、「赤い屍体」から発せられるかどうか。分岐点の夏である。