<金口木舌>「私をどうしてくれる」


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 70年前のきょう。米英と中国が無条件降伏を求めたポツダム宣言を受諾した日本に玉音放送が流れた

▼安倍晋三首相が「つまびらかに読んでいない」としてすったもんだし、政府が「当然読んでいる」との答弁書を閣議決定したポツダム宣言。受諾後、日本軍は恩給を増額させるため、階級を上げるポツダム進級を行った
▼そのポツダム伍長の一人が小説家小島信夫だ。中国大陸に渡って暗号兵の訓練を受け、北京で終戦を迎えた。山東省で配属された原隊はレイテで全滅。「抱擁家族」など家族小説の印象が強いが、体験を基に書いた戦争小説群が残る
▼階級章の星こそが至上価値になったアメリカ2世兵が、人間の格を見透かすと言われる馬の視線を何より恐れる「星」。敵よりも、言うことを聞かない部下に悩む隊長が、敵こそ味方というねじれた感情を持つ「城砦(じょうさい)の人」
▼類を見ない不思議な作家と呼ばれたゆえんか、戦争の不条理を告発するでなくひたすら難解、不気味。小島作品の歪(ゆが)んだいじましい主人公はおろか、別の作家が描いた戦争の罪を告発する英雄も全てのみ込み、戦後日本は猛スピードで戦争を忘れた
▼小島は、そんな世は止められないと言いつつこう書いた。「この私をどうしてくれるか、ということが、また問題になってくる」。きょうを幾億の「私をどうしてくれる」を想像し、手繰り寄せる日に。