<金口木舌>ハードランディング


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 「艦上にハードランディングした」。12日の米軍ヘリうるま沖墜落事故で在日米軍はそう発表した。直訳だと「激しい衝撃を伴う着陸」となる。あくまで「着陸」というが、ぽっきり折れた機体を見れば「墜落(クラッシュ)」なのは明らかだ

▼米軍や米政府の取材でたびたび悩むのが、英語を日本語に訳する際の言葉の選定だ。今回の事故も米側の表現に従えば「墜落」ではなくなる。だがそれでは「大したことはなかった」と事故の本質を矮小(わいしょう)化しかねない
▼過去にも米軍は、原形をとどめず炎上して黒焦げになったヘリの墜落事故でも「ハードランディング」と繰り返してきた。事故でも「アクシデント」とは言わず「インシデント(出来事)」と置き換える
▼普天間飛行場の名護市辺野古移設を合意した米軍再編の取材で、沖縄の基地負担は「インパクト(影響)」。記者の方から「負担」を意味する単語「バードン」を使って質問しても「インパクト」と返してくる
▼英語だけでなく、日本語で表現する中でもさまざまな揺れがある。辺野古の「新基地」と書く本紙に、政府はあくまで「代替施設」と表記する。表現で立ち位置の違いは明確になる
▼基地の存在を「負担」と認めず、「墜落事故」を「出来事」とする思考は、沖縄に駐留する米軍の立ち位置そのものだ。発表のまま書くだけなら、広報紙だけあればいい。