<金口木舌>静かな海への願い


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 辺野古沖ブイ設置、掘削作業着手、掘削開始-。昨夏、名護市辺野古で基地建設が一気に動き出し、本紙も連日号外を出した。10年越しの急展開に市民から作業中止を求める叫びが上がった

▼あれから1年。政府と県の集中協議のため今は作業も一時停止だ。海上を埋め尽くしていた海上保安庁の巡視船やゴムボートはなく、沖縄防衛局の警戒船が数隻あるのみ。静かな海が広がる
▼数日前、パラセーリングを楽しむ観光客が大浦湾に戻った。忘れかけていた沖縄の夏の姿がまぶしかった。「本職のシーカヤックの観光案内に早く戻りたいよ」。抗議船を預かる仲宗根和成船長の苦笑いに本音がのぞく
▼陸上に目を移すと、キャンプ・シュワブのゲート前の座り込みは今も連日続く。交代での24時間体制だ。わずかな明かりの下での夜中のテントは静かで、目の前の国道を走る車の音が気になるほどだ
▼昼夜の行動は体力的にも厳しいはずだが、座り込む市民の表情は明るい。「どうせやるなら楽しく」。初めてテントを訪れる「お客さん」も歌や踊りですぐに輪に入る。“辺野古式大衆運動”が息づく
▼選挙結果や抗議の声を無視して作業を強行する政府と、厳しく対峙(たいじ)しつつも笑顔を失わない市民。この1年で両者の違いはくっきりと浮き彫りにはなった。だが、来月以降ものどかな光景であれ、と願わずにはいられない。