<金口木舌>創造が先か、模倣が先か


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 学生時代に初めて提出した英文レポートは最低評価の「E」。余白に書かれた「Plagiarism」の文字に胸騒ぎがした

▼後にその意が「剽窃(ひょうせつ)」と知る。小説「ライ麦畑でつかまえて」か、その論評の一部を引用して参照欄を入れ忘れた。米国人教師は「盗作は絶対に許されない」と激怒した
▼2020年の東京五輪エンブレム「T」をめぐる盗用疑惑が続く。ベルギー・リエージュ劇場のロゴ「L」に似ていると著作権侵害で提訴された。大会組織委やデザイナー佐野研二郎氏は「模倣は一切ない」と述べる
▼原案は他商標との類似を避けるため何度か修正されたそう。結果的に劇場ロゴを想起させることと相成った。一方、佐野氏は別企画でのデザイン模倣を認め謝罪した
▼「禅と日本文化」で知られる仏教学者・鈴木大拙は禅の概念にある「まる・さんかく・しかく」を森羅万象の構成要素と説いた。横一列に「○△□」を描いた禅画を「宇宙」と呼ぶ。盗用か否かはさておき、「T」も「L」も万物の基本形のあしらい加減か
▼大手コンビニのとある店舗が作ったおでん販促のPOP広告が話題だ。ちくわや大根を配したそれは「五輪エンブレムを想起させる」と組織委から待ったがかかった。全ての創造は模倣から出発するという。暗い話題も多い夏、しばし創造と模倣をめぐる考察の旅に出るのも悪くない。