<金口木舌>沖縄に出発する


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 跳ねるように歩く姿が独特だった。先鋭的な写真表現と評論活動を展開した写真家中平卓馬さんの訃報が届いた。彼が幾度も「出発」した沖縄から発した問い掛けを見つめ直している

▼伝説的な存在だったと言っていい。1977年に病で倒れ、深刻な記憶障害を患った。それでもカメラを手放すことはなく、沖縄への執着も途切れなかった
▼沖縄との関わりを「出発」と呼んだのは自責の念を込めてのことだろう。74年の論評で、沖縄について語るのは「私にある種の苦痛を強いる」と断った上で「それをあえてひきうけることから出発しなければならないだろう」と記した
▼島を占拠する米軍基地と急速に進む自然破壊を凝視した写真家は、沖縄を傍観し、ステレオタイプ化した思考を押し付けてくる日本本土に疑いの目を向けた。その矛先は自身にも向いた
▼2002年の来県時には「カメラを持って沖縄に出発します」と書いている。「沖縄県人なのか琉球人なのか」「沖縄は日本最南端の一地方になったのか」という根源的な問いを復帰30年の沖縄に突き付けた
▼中平さんが批判した傍観とステレオタイプ化した思考の押し付けは今も変わらない。辺野古新基地をめぐる集中協議で見せた政府の姿勢にその一端を見る。だからこそ「沖縄とは何か」という問いに行き着く。何度でも立ち戻るべき「出発点」である。