<金口木舌>公衆電話は健在


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 「公衆電話が非常に便利である」。吉田茂元首相の長男で英文学者の吉田健一氏がエッセーに書いている。「こっちからは掛けられても他所(よそ)から掛って来ない点にあって(略)思い付いた人間は表彰されていい」

▼よほどの電話嫌いだったようで、自宅の電話は「文明の敵」だから「厄払い」=撤去したという。もう40年以上前の話だが、彼が今の世を見たらどう思うだろう。携帯電話の契約数は1億5千万台超。全国民が1台以上持つ計算になる。電話から逃れられない環境だ
▼きょうは公衆電話の日。1900年に東京の新橋駅と上野駅に初めて設置されたことに由来する。ケータイの普及に押され、ピーク時の90万台(90年度)から、ことし3月には18万台と5分の1にまで減った
▼だがお役ご免ではない。災害時には威力を発揮する。固定電話や携帯電話は非常時に通信制限がかかるが、公衆電話は優先電話に指定されていて制限を受けない。停電でも使え、一定期間は無料になる
▼総務省は最低限の台数を義務付けており、完全に消えることはない。その維持費を支えているのがユニバーサルサービス料だ。電話料金の請求書に記された1番号当たり2円のことで、皆で薄く広く負担している
▼縁遠くなった存在でも、公衆電話は災害時に頼れる重要インフラだ。吉田氏とは逆の意味で、ありがたさを享受したい。