<金口木舌>「いつ死ぬ」にどう答える


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 世話になった旧友の亡父は元自衛隊員だ。「田舎で高校を出て、めぼしい就職先もなかった」と懐かしい自衛隊時代を聞かされたのはもう昔

▼自衛隊が協力する映画やドラマが目立ち始めたのはここ数年だ。昨年、秘密保護法と慰霊の日の特集作りで同僚と実感を語り合った。百田尚樹氏原作の大ヒット映画「永遠の0」もそう
▼特集に寄稿してくれた須藤遙子・横浜市立大客員准教授は指摘した。防衛省通達により隊員出演や指導に加え、戦車などの装備が無償提供されるので便乗する制作者も多く、防衛側の意向をくむ脚本変更もある
▼戦争作品に共通するのは国家批判をせず、自己犠牲の「日本人」が愛する者を守る人間劇として戦争を描くこと。それら平板に理想化された「日本人」は誰か。須藤准教授は言う。「アジア侵略や沖縄戦という『不純分子』を忘却してこそ成立する」
▼安保関連法成立の大奔流の今、自衛隊員応募に県内で不安が広がる。県内で2014年度に入隊した210人の約6割を占める高校生。家計支援、災害救助に憧れる思い、今後身に何が起こるか分からぬ恐れを語る
▼就職先の一つ、公務員の安定性。安保法制により飛躍的に増大する自衛隊の役割への不安がそれらを凌駕(りょうが)する。「いつ死ぬか分からない」。泣ける戦争ドラマの時代に育つ世代の問いに、全ての大人は深刻に向き合わねばならない。