<金口木舌>西に疲れた母あれば


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 西ニツカレタ母アレバ 行ッテソノ稲ノ束ヲ負ヒ-。宮沢賢治の名作「雨ニモマケズ」の一節だ。詩は「生・老・病・死」の四苦に苦しむ人々を慈しむことを説いている

▼21日は宮沢賢治忌。賢治は自然や人を尊び、慈しんだ。詩人は私欲に走らず、自己犠牲の精神を貫いていたから、高齢者を取り巻く日本の現状には心を痛めているのではないか
▼19日、大阪市の特別養護老人ホームで、職員が入所者女性に対する殺人未遂の疑いで逮捕された。職員は「日々の介護に疲れた」と供述している。神奈川県川崎市の介護付き有料老人ホームで明らかになった入所者への虐待など、同様な事件が相次いでいる
▼長年、社会に尽くしてきたお年寄りの人生の最終盤。「虐待」「暴行」の日々で死を迎える幕切れは何とも悲しい。先達を敬うことはもちろんだが、もう一度、賢治が詩に託した、人に対する思いやりの気持ちを心に刻みたい
▼日本生命保険が16日発表したアンケート結果で、老後に住んでみたい都道府県の1位は沖縄だった。2位は東京、3位は北海道で、ニッセイ基礎研究所は「人気の観光地が上位になった」と分析した
▼ただ観光地と住みやすさは別だろう。沖縄は期待通り、高齢者に住みやすい地域になっているだろうか。「敬老の日」の21日、お年寄りはもちろん誰にとっても暮らしやすい社会に、と心から願う。