<金口木舌>平和と動物園


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 児童文学作家の土家由岐雄さんの童話に「かわいそうなぞう」がある。実話を基に動物を通して戦争のむごさを伝える。戦争を知る最初の物語として幼いころ、読んだ人も多いに違いない。1943年夏の上野動物園での話である

▼空襲に伴う猛獣逃亡を防ぐため、東京都は殺処分を決定する。ライオンや熊が殺され、象のジョン、トンキー、ワンリーが残る。毒を混ぜた給餌を試みるが、賢い象は見向きもせず、結局餓死を待つことになる。象が衰弱し、死にゆく姿と、死を待つ飼育員の心痛を描く

▼上野動物園の歴史は戦後「動物園は平和そのものである」を合言葉に復興した。振り返れば、国家、地域間外交に動物が登場した場面も数知れない

▼米国やインドからは子どもたちへの贈り物としてライオンや象、72年の日中国交回復の際はパンダが来て、人々は平和のありがたさを身に染みて感じた

▼昨年12月からことし3月中旬には沖縄こどもの国(沖縄市)に福島県から象が越冬に来た。その姿から震災被災地へ思いを重ねた人もいただろう。展示動物は語らぬため、人に多彩な解釈を許す

▼こどもの国では、この1年で75頭が死んだ。その中には長寿熊のナナもいて、生と死を考える機会もあったに違いない。人に身を委ね、一生を終える動物にはせめて、子どもたちの歓声と「平和そのもの」の園を贈り続けたい。