<金口木舌>「元」を背負った抵抗


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 本紙のテレビ欄を見ていると「元台風21号の低気圧接近で列島大荒れ」という報道番組の案内が目に留まった。東北で猛威を振るった「爆弾低気圧」を指している。台風にまで「元」が付くとは肩書並みである

▼気象台に尋ねたら、初耳という。正式な気象用語ではないが、熱帯低気圧と呼ぶよりも緊張感がしばらく持続しそうだ。ちなみに「爆弾低気圧」も気象台は使わないという
▼肩書の「元」は注意を要する。任期を終えた政治家の肩書を「元議員」と記事に書いたところ、当人から軽いおしかりを受けた。議席はなくとも生涯政治家のつもりでいるようだ。「先生、どうも」とその場をとりなした
▼「元カレ・元カノ」という造語はすっかり定着した。「以前に恋人だった男性・女性」という辞書風の解説よりも語感は明るい。友達の範ちゅうにあるような響きがある。恋愛観の変化を反映していよう
▼「元」と「現」のせめぎ合いを見た。プロ野球山本昌さんの現役引退やフィギュアスケート浅田真央さんの復帰である。急逝した女優川島なお美さんには現役への執念を感じた。「元女優」という肩書は受け入れ難かったであろう
▼元兵士、元学徒隊、元護郷隊らの声を聞いた。戦後70年にして平和憲法や民主国家に「元」を据えるような戦後政治の破綻を見据え、怒りの言葉を紡いだ。重い肩書から発する抵抗である。