<金口木舌>自然界からの宝物


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 お花畑という美しい名で呼ばれる。人の腸は菌が絶えず増え続け、複雑な微生物生態系をつくっている。名付けて腸内フローラ(お花畑)だ

▼人の健康に密接な関係があることが分かってきた。ひと一人に数百種類、約100兆個あるという細菌の解明はこれからだが、健康食品市場では既にブーム到来だ
▼腸内だけではない。1グラムの土には約1億もの微生物がおり、ごくまれに薬を作り出せる細菌がいる。抗生物質のペニシリンが代表格だ。寄生虫を抑える菌を発見した大村智さん(80)がことしのノーベル医学生理学賞に決まった
▼出身地山梨県のワインの発酵から微生物に興味を持った。小さなポリ袋を持ち歩いて行く先々で土を集め、年間数千株の菌を分離するのは大変な労力であっただろう。地道な研究の積み重ねから、多くの人を救う菌を探し当てた
▼さらに素晴らしいのは、この菌から生まれた薬を、製薬会社がアフリカを中心に無償供与していることだ。年間3億人が失明などの疾病から救われている。沖縄でも糞(ふん)線虫症の特効薬として使われる
▼定時制高校の教師時代、油まみれの手を拭く間もなく試験に走り込んだ生徒を見て、「もっと勉強しないと」と研究者を志したという大村さん。人の痛みを知り、人の役に立ちたいと願った人だけに、自然界は微細で大きな宝物を与えたように思える。