<金口木舌>「1億総」の時代か


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 「露営の歌」という軍歌がある。〈勝ってくるぞと勇ましく/誓って故郷(くに)を出たからは/手柄立てずに死なりょうか〉と軍人を鼓舞する

▼これを三線の名手・登川誠仁さんが替え歌にした。〈勝ってかまぶく(=かまぼこ)食べたいな/誓ってちんぬく(=里芋)食べたいな/手柄てんぷら食べたいな〉。題は「軍歌たべたいなあ」。飢えに苦しんだあの時代を笑いで皮肉る
▼戦時標語〈欲しがりません勝つまでは〉も沖縄ではこう変わる。〈ふしがりません勝つまでは〉。「ふしがらん」はうちなーぐちで「耐えられない」の意味。国民に耐乏を強いる重い空気を風刺した
▼一方、こちらはパロディーではないようだ。安倍晋三首相の口から時代がかった言葉が飛び出した。「1億総活躍社会」。聞いた瞬間、「1億火の玉」「1億玉砕」「1億総特攻」という戦時中のスローガンを思い出した。戦後は「1億総ざんげ」「1億総中流」とも使われた
▼個性や多様性を重んじる時代に国家統制的な「1億総-」という言葉を平気で使える感覚をお持ちのようだ。安保法を成立させた強権政治のきな臭さを覆い隠す“消臭剤”の役目なのだろうか
▼首相は「新三本の矢」の目標も掲げた。言葉ばかりが躍るが、「出生率目標1・8」が〈産めよ増やせよ〉に、「介護離職ゼロ」が〈堅忍持久〉のスローガンに変わらないことを願いたい。