<社説>「集団死壕」文化財指定 実相知る遺跡保存に前進


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 沖縄戦最大の悲劇に数えられる「集団自決」(強制集団死)を語り継ぐ上で重要な文化財指定だ。地域が主体となって戦争遺跡の保存、活用の可能性を示した意義は大きい。

 うるま市は市具志川にある「具志川グスク」とグスクに築かれた「具志川グスクの壕」を市文化財に指定した。
 「具志川グスク」は貝塚時代からグスク時代への変遷、人や物の交流を知る上で重要な遺跡である。日本軍は1944年、グスクに壕を構築した。米軍上陸直後の45年4月4日、地元の警防団員23人が日本軍から渡された手りゅう弾を壕内で起爆し、13人が亡くなった。壕は悲劇の現場となった戦争遺跡である。
 2件の文化財指定は、琉球の歴史と沖縄戦の実相を知り、遺跡を保存・活用する上で意義深い前進である。今回の指定を機に、保存の手だてと有効活用に向けたうるま市の取り組みを期待したい。
 今回の文化財指定で大きな役割を果たしたのは具志川自治会であった。グスクと壕の所有者である自治会が2020年、文化財指定を市に申請したのである。自治会はこれまで地域にある史跡や戦争遺跡を大切に保存し、活用にも取り組んできた。
 自治会は学校の平和学習でグスクや壕を訪れることを推奨していた。「集団自決」の証言を収録した「具志川字誌」の編さんに携わった地元住民がボランティアの平和ガイドを担当し、慰霊祭も毎年開催してきた。このような自治会の主体的活動の延長上に今回の文化財指定があった。自治会の取り組みを高く評価したい。
 この壕で起きた「集団自決」の調査が本格化するのは戦後50年の節目となった1995年以降である。生存者の中には長い間、証言することをためらった人もいたが、自治会では地元で起きた悲劇と向き合い、壕を守りながら語り継いできた。
 県内では市町村史誌や字誌・地域誌の編さん作業を通じて、沖縄戦体験の証言収集が進められている。この中には住民の避難場所となったガマや住民を動員して日本軍が構築した陣地など戦争遺跡に関連した証言もある。今回の「具志川グスクの壕」の文化財指定は県内各地に残る戦争遺跡の保存・活用を考える上でも重要な示唆を与える。
 県内41市町村が把握している戦争遺跡は1300カ所以上を数える。しかし、県教育委員会文化財課によると、市町村などが文化財に指定した戦争遺跡は今回のうるま市を含め28カ所にとどまる。戦跡の風化や体験者の高齢化などが文化財指定が進まない主な理由である。
 「具志川グスクの壕」の文化財指定は戦争遺跡の保存と有効活用の可能性を示すものだ。多くの市町村が進めている沖縄戦継承の取り組みの中で文化財指定を視野に入れた戦争遺跡の保存・活用を活動の柱に据えてほしい。