<社説>北朝鮮衛星沖縄通過 国際社会で緊張緩和を


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 北朝鮮が24日未明に打ち上げた軍事偵察衛星が沖縄上空を通過した。フィリピンの東に落下したとみられ、失敗した。日本政府は県内で全国瞬時警報システム(Jアラート)を発し避難を呼びかけた。5月に続く打ち上げで、10月にも予定する。防衛省は迎撃するため県内での地対空誘導弾パトリオット(PAC3)の展開を続ける構えだ。

 北朝鮮は近年、軍事衛星や弾道ミサイルの発射も活発だ。背景には、北朝鮮を擁護する中ロと日米韓などとの対立がある。国際社会に深い分断と激しい対立がある限り、北朝鮮は発射をやめないだろう。止めるには国際社会が一致団結し相互の緊張を緩和する必要がある。日本は北朝鮮を非難するだけではなく、撃たせないためにはどうするかを考え、実行すべきだ。しかし、その外交努力が見えない。
 北朝鮮の衛星打ち上げを受け、国連安全保障理事会は緊急会合を開き、日米は弾道ミサイル技術を使った発射を禁じた安保理決議違反だと非難した。米国の国連大使は衛星発射時の県内での避難呼びかけに触れ「緊張を高めている」と批判し、10月の再打ち上げを阻止すべきだと訴えた。
 これに対し北朝鮮の国連大使は米国に対する自衛権の行使だと正当化。「米国とそれに追随する国々が敵対的な圧力と軍事的脅迫を強めれば、北朝鮮はより活発に衛星打ち上げなどの主権国家の正当な権利を行使する」と述べた。
 安保理は2018年以降、北朝鮮の弾道ミサイル発射などに対し、具体的な対応を取れていない。背後に中国とロシアの擁護があるからだ。
 東アジアの緊張を高める北朝鮮の行動は容認できない。しかし北朝鮮の軍事行動に軍事力で対抗することは際限なき軍拡を招き、軍事衝突という最悪の事態につながる恐れがある。そのような事態は絶対に避けねばならない。
 松野博一官房長官は声明を発表し、北朝鮮を非難した上で、日米同盟の強化、他国領域のミサイル基地などを破壊する反撃能力(敵基地攻撃能力)を含む防衛力強化を進める考えを示した。これでは北朝鮮の挑発に乗り、挑発で返す姿勢だ。迎撃するだけではなく、北朝鮮国土の基地を攻撃する可能性を表明したのに等しい。北朝鮮にとっては「脅し」に映るだろう。
 そのようにして双方が軍拡を進め、緊張が高まれば高まるほど、最も危険なのは沖縄だ。日本政府は北朝鮮の軍事行動を口実にPAC3の県内常駐化を正当化するだろう。
 沖縄戦の教訓は「軍隊は住民を守らない」と並んで「軍隊や基地があれば標的にされる」がある。南西諸島の軍備強化はいざ有事になれば住民が巻き込まれる危険を高める。
 そうならないためにも紛争や戦争の火種を取り除く外交こそが肝要だ。日本が果たすべき役割は緊張を高める軍備強化ではなく、対話による解決を国際社会に促すことだ。