旧京都帝国大(京都大)の研究者が昭和初期に今帰仁村の「百按司(むむじゃな)墓」から研究目的で持ち去った遺骨の返還を琉球王家の子孫とする県民らが大学に求めた訴訟で、大阪高裁は請求を退けた一審を支持し、原告の控訴を棄却した。
一方、原告らを「沖縄地方の先住民族である琉球民族に属する」と認定した。付言(ふげん)でも遺骨の返還は世界の潮流になりつつあるとし「持ち出された先住民の遺骨は、ふるさとに帰すべきだ」と指摘した。京都大は一刻も早く骨を返すべきである。
京都大の返還拒否や、それを追認した判決には、日本本土(ヤマト)の沖縄に対する継続的な植民地主義が垣間見える。そもそも、日本本土と沖縄では墓を巡る慣習が違うが、それを考慮せず、日本本土の慣習に沿う民法だけで判断したからだ。その根本を改め、日本の法律に限界があるのなら国際人権法の趣旨を踏まえた判断をすべきだ。
だが判決は原告が主張した国際人権法や憲法に基づく遺骨返還請求権はないとした。墓に参拝している子孫らは他にも多数いると考えられ、民法で請求権がある祭祀(さいし)の主宰者とは認められないとした。
波平恒男琉球大名誉教授が指摘するように、琉球・沖縄と日本本土では、墓制や葬制などの伝統的慣習が大きく異なる。沖縄ではお墓の集団的利用が広く行われてきたが、民法は家族単位の墓が単独相続される日本本土の慣習を想定しているとみられる。
波平氏は「本裁判の問題性は多数派の大和人の法に基づいて少数派の琉球人の遺骨返還請求が裁かれている点にある」と指摘。植民地主義の過去の清算や沖縄の自己決定権の確立とも深く関わるという。
一方、付言で原告らを「沖縄地方の先住民族である琉球民族に属する」と認めた点は重要だ。自己決定権など沖縄の人々の権利回復との関わりが議論されているからだ。
国連は2008年に沖縄の人々を先住民族と公式に認め、日本政府に基地問題などの差別の改善や、沖縄の言語、文化の保護を何度も勧告している。だが政府は沖縄の居住者・出身者は日本民族だとし勧告を受け入れていない。
国際法である先住民族権利宣言は、先住民族の合意がない限り、先住民族の土地の軍事利用を禁じている。沖縄の人々を先住民族と認めると政府は基地問題など、これまでの沖縄政策の「不正」を是正せざるを得なくなるため認めたくないのであろう。
付言は訴訟での解決には限界があるとし、関係者に対話を促した。その前に裁判所は国際人権法の趣旨の実現を考えるべきではなかったか。琉球民族を先住民族と認めた付言に、原告は、アイヌ民族を先住民族と初めて認めた二風谷(にぶたに)ダム建設を巡る札幌地裁判決を重ねた。上告する方針だ。遺骨返還は世界の潮流である。最高裁には世界の潮流に沿う妥当な判決を求める。