<社説>米軍性犯罪非公表 渉外知事会で抗議追及を


<社説>米軍性犯罪非公表 渉外知事会で抗議追及を
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 在沖縄米兵の性的暴行事件が相次いで発覚した問題を巡り、神奈川や山口、青森、長崎など米軍基地が立地する沖縄以外の県でも、性犯罪事件の地元自治体への通報がなかったことが判明した。全国的に米軍の性犯罪が市民に知られていない可能性がある。

 米軍人・軍属による事件・事故の通報基準は1997年の日米合同委員会で合意されている。その合意事項が履行されていないのはなぜなのか。渉外知事会として一体となって日米両政府に抗議し、地元への情報伝達が形骸化している経緯をつまびらかにさせる必要がある。

 横須賀基地やキャンプ座間などがある神奈川県内では、2022年に強制性交致傷の疑いで米軍人が書類送検、今年も不同意わいせつの疑いで米軍属が逮捕されていた。いずれも警察が非公表とし、神奈川県は事件を把握していなかったという。

 非公表の理由について神奈川県警は「二次被害防止や報道による精神的苦痛への配慮のため」とし、日本人同士の性犯罪事件と同様に、被害者保護の観点から報道発表していないと説明している。

 被害者の保護や二次被害の防止は当然だ。だが、警察が事件を非公表にすることと、地元の関係機関で情報共有することは別の問題だ。地域社会が事件の発生を把握できなければ、再発防止の手だてを講じようがない。警察の言う被害者のケアや補償が適切に行われているかを確認することもできない。

 米軍人が起こす事件や事故は、日本人の事件とは性質が異なる。日米安保条約に基づいて沖縄をはじめ日本に駐留する公務中の米軍人や米軍基地内には、日米地位協定によって日本の司法が及ばない。

 戦場に立つことが前提の軍隊は構造的に暴力性を持つ。ローテーションで沖縄に配置される米兵たちの抑圧された暴力性が、弱い立場の女性らに向かう凶悪事件となって繰り返されてきた。こうした基地あるがゆえに起きる事件や事故は、地域の誰もが被害に遭う恐れがある。

 1995年には、沖縄本島北部で起きた少女乱暴事件に抗議する県民総決起大会に8万5千人が参加し、米兵犯罪を糾弾し、地位協定の改定を求める決議を行った。

 沖縄の激しい怒りを受け、97年に日米合同委員会は(1)米軍機や米艦船の事故(2)危険物や有害物の誤使用・流出・漏出(3)日本人やその財産に実質的な損害を与える可能性のある事件―などについては速やかに米側から日本側に伝え、都道府県や市町村に通報する経路を定めた。この通報経路が機能しなくなっていた。

 米兵による性暴力事件は、日米が合意した通報基準の原点と言うべき「凶悪犯罪」である。日米安保に基づき米軍に基地を提供する日本政府には、事件の発生を速やかに地元社会に伝える責務があることを改めて自覚すべきだ。