<社説>米軍事件で新枠組み 実効性が厳しく問われる


<社説>米軍事件で新枠組み 実効性が厳しく問われる
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 これでは屋上屋を架すような対応だ。これで米軍人・軍属による卑劣な性的暴行事件を防ぐことができるのか、実効性が厳しく問われている。

 在沖縄米兵の性的暴行事件が相次いで発覚した問題で、在日米軍司令部は日本政府と連携して、在日米軍幹部、沖縄県、地域住民による新たな枠組みとなる「フォーラム」を創設すると明らかにした。沖縄県警との合同パトロールに向け、米軍のパトロール回数を増やす方針だという。

 現時点で詳細は明らかになっていないが、今回の方針には首をひねらざるを得ない。米兵らが引き起こす事件・事故について協議する枠組みや組織は既に存在している。それが機能しないまま休眠状態になっているのである。

 稲嶺恵一県政当時の2000年、「米軍人・軍属等による事件・事故防止のための協力ワーキングチーム」が始動した。しかし、県の開催要求にかかわらず7年ほど開催されていない。さかのぼれば、西銘順治県政当時の1979年にも在沖米軍、国、県による三者連絡協議会が発足したが、2003年の開催を最後に自然消滅した。

 いずれの枠組みも、米軍基地の運用に関わるような具体的な協議に米側が消極的なために機能しなくなったとされる。今回、在日米軍の提案で創設される「フォーラム」も同じような状態に陥る可能性がある。新たな枠組みを設けたところで実効性を発揮しなければ意味をなさない。単なるアリバイづくりである。

 そもそも米軍事件・事故の通報体制について定めた1997年の日米合同委員会合意すら形骸化している。日米合意が履行されないまま米軍事件が繰り返されているのだ。

 「フォーラム」を創設する米軍と日米両政府は過去の2組織の機能停止について検証し、新組織で何を目指すのか、何を対象に協議するのか具体的に決める必要がある。基地の運用に関わるからといって米側が参加を渋るようなことがあってはならない。

 在日米軍司令部の発表で県警と米軍の合同パトロールに言及していることも看過できない。合同巡回はこれまでにも米兵事件の再発防止策としてたびたび浮上した。

 2012年には県内で相次いだ米兵事件を受け、森本敏防衛相(当時)が米軍側に那覇市内などで実施する夜間巡回を県警と共同で行うことを検討するよう要請した。

 だが、県警側が日本の警察権が円滑に行使できないと懸念を示し、実行されなかった。県警が、身柄の措置で問題が起きる可能性や、既存の警察力の低下を招く恐れがあることを危惧したのだ。

 逮捕権や捜査権がないがしろにされるような事態を招いてはならない。玉城デニー知事は「具体的な内容が速やかに示されることを期待する」とコメントした。主権を侵害する恐れのある合同巡回を安易に認めてはならない。