『南鎌倉高校女子自転車部』(2017)は、長崎から鎌倉に引っ越してきたヒロインが、進学した高校で新しい友だちや自転車に出会い、サイクリストとして目覚める姿を描いている。メインキャラは女ばかりというガールズアニメで、ヒロインの仲間の一人が沖縄の離島出身という設定だった。名前は比嘉夏海、水泳が得意でかすかに小麦色の肌を持つボーイッシュな風貌だ。
アニメからはそれるが、かつてデビュー曲「17才」でブームを巻き起こした南沙織は、沖縄から来た少女のイメージを全国に浸透させた。彼女が沖縄の日本復帰と前後して登場したのは、おそらく偶然ではない。復帰を視覚化できる偶像(アイドル)としての身体を、沖縄と本土の双方が必要としたのだ。沖縄では本土で活躍する彼女の姿に期待を重ね、本土では程よくろ過された沖縄イメージをまとう「妹」的存在を欲していた。
だが小麦色の肌にさらさらの長い髪を持つ健康的なビジュアルと、愛称の「シンシア」やインターナショナルスクール出身という経歴がもたらす、軽いエキゾチシズムの間で、当の南は時折戸惑いの表情を浮かべていたように思う。本浜秀彦は沖縄出身少女アイドルの系譜とその身体性を論じた際に、安室奈美恵の「少しふてくされた表情、しぐさ」に言及していたが、それは南が見せた戸惑いの表情につながっているのではないか。
話をアニメに戻そう。沖縄から家付きの筏で海を渡ってきた『ケンコー全裸系水泳部 ウミショー』(2007)の型破りなヒロイン・蜷川あむろ、やや野性味のあるアイドルとして描かれた「THE IDOLM@STER」シリーズの我那覇響など、近年のアニメに登場する沖縄の少女たちは、郷土の期待を一身に背負いながら沖縄戦の惨禍と米軍統治の現実を鋭く突きつけた『アタックNo.1』の伊佐原のような存在ではない。『南鎌倉―』の比嘉夏海も、世界を旅する両親と離れて知り合いの星海荘に寄宿する自立した少女だが、作中に反映される沖縄の色合いは、断片的なうちなーぐちと民宿で手伝っていたという沖縄料理にとどまる。
ところで本作の第13話、自転車部のメンバーが台湾を訪れるエピソードには、夏海にうり二つの現地ガイド・徐静媛(スー・ジンユア)が登場する。もちろん沖縄と台湾の地理的・歴史的近縁性を反映した設定に違いないが、同じ小麦色ながら静媛の肌の色は夏海よりさらに少し濃い。日本本土から南への距離に応じて肌の色が濃くなるという発想の根は、台湾観光ではしゃぐ女子高生たちの姿とどこかでつながっているだろうか。
(世良利和・岡山大学大学院非常勤講師)