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もっと精神科医を頼って <うつをこえて 自殺を防ぐために>3 張賢徳


もっと精神科医を頼って <うつをこえて 自殺を防ぐために>3 張賢徳 イラスト 増田たいじ
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 東京での心理学的剖検調査は精神的につらい作業だったが、日本人も欧米人同様、自殺の90%近くに精神疾患が関与することを明らかにできた。自殺行動の普遍的な一面を解明でき、研究者としてはいくばくかの達成感を得たが、同時に精神疾患治療の重要性を痛感し、精神科医としては身の引き締まる思いだった。

 この調査の中で、親友の自殺の真相の一端を知る機会を得た。罪悪感の強さで、まだその死を直視できないでいたが、覚悟を決めた。彼は双極症(そううつ病)で通院していたのだった。

 生前、彼からそのことを打ち明けられたことはなかったし、その兆候を感じることもできなかった。最後の電話で彼は私に何を伝えたかったのだろう? 苦悩と罪悪感が癒えることはなかったが、精神科医になっていた私は、彼の自殺に双極症の介在を知り、自殺予防への思いを新たにした。

 精神医学が自殺予防に果たす役割は大きい。しかし完璧ではなく、治せない精神疾患はまだ多い。虐待やいじめによる心の傷や経済問題なども同時に抱え、投薬などの一般的な治療だけでは解決しない患者さんも珍しくない。私を含め、多くの精神科医が患者さんの自殺を経験している。

 それでもなお、死にたくなるほどつらい心の状態の時には、精神科を頼ってほしい。そこでの治療だけでは解決しないかもしれない。でも今では、心理士やケアマネジャー、行政などと多職種で取り組む意識が精神科医にも広がっている。絶対視は問題だが、精神医学はやはり自殺予防の重要なピースとなる。

 しかし実際には、精神科にかかっていた自殺者は少ない。1990年代の私の心理学的剖検調査では、精神科で治療中だった人は46%。札幌医大の河西千秋教授(神経精神医学)らの最近の調査では、重症自殺未遂者の精神科受診率は51%だった。30年前も今も、本気で自殺を考える人の半分しか精神科で治療を受けていない。

 最近、「メンタルヘルスリテラシー」という言葉をよく聞く。リテラシーは「理解して使いこなす能力」の意味。精神疾患を正しく知り、予防や早期発見、治療に当たること、とでも言おうか。

 日本では残念ながら、この意識がとても低い。精神疾患で一般的なうつ病でさえ、近年の調査で精神科受診率はたった15%。その向上だけが答えではないが、メンタルヘルスリテラシーを発揮し、さまざまな角度から心の健康を考える必要がある。

 (日本自殺予防学会理事長)
(共同通信)