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能登半島地震 誤情報、混乱を助長 ネットデマ 不安あおる 「正義感」から拡散も


能登半島地震 誤情報、混乱を助長 ネットデマ 不安あおる 「正義感」から拡散も スマートフォンに保存したワゴン車の写真を示す男性。不審な車と聞き、知人のスマホの画面を接写したものだが、のちにデマだと判明した=7日、石川県七尾市(画像の一部を加工しています)
この記事を書いた人 Avatar photo 共同通信

 能登半島地震の発生以来、インターネットの交流サイト(SNS)上などでデマが拡散し、被災者の不安をあおっている。被災地の助けになりたいという「正義感」が結果的に混乱を助長した事例も出ており、識者は「感情を高ぶらせるような情報が特に危ない。広げる前にいったん立ち止まって」と強調する。

銀色のワゴン車

 石川県七尾市の避難所で7日、男性(45)が緊張感を漂わせていた。「寝るときはスマートフォンや玄関の鍵、お金をポケットに入れている。SNSにも不審者情報が流れているから」

 男性は3日、知人から「火事場泥棒が乗っている」という、ナンバーも写る銀色のワゴン車の写真を見せてもらった。ネットで拡散している情報だと聞き、スマホで接写しその後数人に伝えた。

 七尾市の別の避難所では、SNS情報を引用する形で同じナンバーのワゴン車に注意を促す紙が張られた。珠洲市の複数の避難所でも同様の情報が掲示された。

後悔

 しかし実はこのワゴン車は、携帯基地局の修理を請け負った電気通信会社のものだった。同社によると、作業員2人が2日に現地に入ったという。「被災された方を助けたいという思いで働いている。誤情報が拡散されるのは本意ではない」と困惑した様子で話した。

 ネット上でも既に、デマだったという情報が流れている。しかし、不審者を心配していた避難所の男性は把握しておらず「知らなかった。スマホの充電もいつなくなるかわからないし、情報も入ってこない。何が本当でうそなのか分からなかった」と驚いていた。

 デマ投稿の発信元の詳細は不明だが、拡散に大きく寄与した能登半島出身の20代という人物が取材に応じた。X(旧ツイッター)でワゴン車の写真とともに「とても憤りを感じます。拡散お願いします」と投稿したアカウント主だ。

 この人物は地震後、現地の被災状況などを活発に発信してきた。デマとの指摘を受けてX上で謝罪し、既に投稿も削除したが、千件超がリポスト(転載)されたという。「生まれ育った地の役に立ちたかったが、とても悔やんでいる」。それでも、被災地情報の発信は今後も続けるとした。

根拠

 メディアリテラシーに詳しい法政大の坂本旬教授(メディア情報教育学)は「根拠のない情報を真に受けて広げると混乱が起きる。投稿が正義感からなのか、悪意があるのかは関係がない」と注意を呼びかける。

 悩ましいのは、被災者の不安が全て杞憂(きゆう)とは限らないことだ。ボランティア目的で来たとする男が窃盗容疑で逮捕される事件も起き、不確かな情報でも共有して身を守ろうとする動きが広がる。

 「不審な男3人組。注意して下さい!」。ある避難所の白板に一時記された内容。避難所スタッフによると、早朝に現れた3人組から物資の状況を尋ねられ、足りていると答えると、名乗らずに立ち去った。不審に感じ、警察に伝えたという。

 坂本教授は、真偽不明の情報を完全になくすのは難しいと指摘。その上で「裏付けが乏しいと感じたら、傍観せず『根拠は何なのか』などと積極的に声を上げることが大切だ」と話した。

(共同通信)