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女性落語家・金原亭杏寿、部活での心残りやタレント活動時代 覚悟を決め弟子入りした師の教えとは 小禄高校(6)<セピア色の春>


女性落語家・金原亭杏寿、部活での心残りやタレント活動時代 覚悟を決め弟子入りした師の教えとは 小禄高校(6)<セピア色の春> 金原亭杏寿さん(キングプロダクション提供)
この記事を書いた人 Avatar photo 吉田 健一

 小禄高校の卒業生で史上初の落語家となった女性がいる。金原亭杏寿(きんげんていあんじゅ)(本名・川満彩杏(あい))42期生だ。県出身女性初の落語家でもある杏寿は、ブラスバンド演奏に花を添えるカラーガードとして過ごした高校時代に芸能の世界に飛び込んだ。学校生活を通して培った経験は、つらく厳しい修行時代を乗り越える原動力になった。

 宜野湾市に生まれた杏寿は小学校4年生の時、那覇市に引っ越し、壺屋小に転入した。外で遊び回るのが好きで、「日焼けで肌は黒く、髪も短かった。人生で一番活発だったかも」と笑う。友人との遊び場はもっぱら安里川周辺。小学6年には、自由研究の題材で安里川の源流を調べ、「コンクールで銀賞をとった」と胸を張る。

 神原中学では吹奏楽部に入部、トランペットを担当した。高校でも音楽に打ち込みたいと、吹奏楽部の強豪校として名をはせていた小禄高校に進学し、芸術教養コースに所属した。部活は運動部顔負けの練習量を誇った。楽器演奏や基本動作の練習はもちろん、基礎体力を付けるためのランニングや筋力トレーニングは日常茶飯事で、休み時間は「寝ているか読書をしているかのどっちかだった」と振り返る。

 ハードな日々が続いた高校2年の夏、転機が訪れる。部の友人と遊びに行った那覇まつりでスカウトされた。「せっかくの機会」と前向きに捉えて、アルバイトの感覚でタレント活動を始めた。最初の仕事は2006年公開の映画チェケラッチョで、「小錦さんの後ろで踊る役」だった。

 タレント業をこなしながらも部活を休むことはなく、全国大会にも3年連続出場した。ただ、部活で一つ心残りがある。最後の全国大会を控えたある日、練習でライフルを回した際に指を骨折した。大会本番では無音になる瞬間に一人バトンを投げる大役を任されていたが、パートの変更を余儀なくされた。「いまだにバトンを投げたかったと思う」

小禄高校42期生の入学式の様子(創立60周年記念誌より)

 高校時代について、「部活一色で、クラスでも目立つ方ではなかった」と語るが、高校3年の時、生徒の人気投票で「ミス小禄」に選出された。高校卒業後の進路は、昔から夢だった保育士になるべく短期大学への進学も選択肢にあったが、タレントとして本格的に活動する決意を固めた。

 その後、県内を中心にドラマやCM、モデル、舞台、ラジオなど幅広い分野で活躍するが、「広い世界を見たい」との思いから16年に上京した。タレントとしてゼロからのスタートだった。東京では、オーディンションを受ける中、演技を学ぶためスクールにも通った。その後、舞台やCMへの出演を果たしたが、思い描いた将来像とはほど遠く、「このままでは何者にもなれない」との焦りだけが募った。

 転機が訪れたのは17年秋。スクールの講師を務めていた映画監督の神田裕司から演技指導の一環で落語を見るよう勧められた。足を運んだのは池袋演芸場。そこで行われていたのが「金原亭世之介(よのすけ)の会」、演目は恋物語から悲惨な場面に展開する「宮戸川」だった。「物語の情景が浮かび、まるで映画を見るような没入感があった。ただ一人座り、話しているだけで、こんなにも感動が生まれるのが衝撃だった」。

 1カ月後の17年11月、覚悟を決め、弟子入りを志願した。「人生、命を懸けてやるなら面倒をみてあげますよ」と言われ、入門を許された。「なんでも挑戦しなさい」という師の教えの下、花魁姿での落語や声優とのコラボ、歌手デビューを果たすなど、落語界の常識にとらわれることなく新しいことに果敢に挑戦する。入門から5年余りたった23年2月、二つ目に昇進し、落語家を名乗れるようになった。「師匠に追いつくのは途方もないが、『好きなはなし家は杏寿』と言われるようになりたい」。「何者でもなかった」杏寿は今、唯一無二の落語家として精進し続ける。

(文中敬称略)
(吉田健一)

 【沿革】

 1963年4月 開校

 68年4月 通信制課程開設式(77年に泊高に移転)

 70年7月 全国高校野球選手権沖縄大会で初優勝

 71年7月 弓道女子チーム九州総体優勝

 83年11月 九州地区吹奏楽連盟主催マーチングバンドコンテスト金賞

 87年11月 全国高校サッカー選手権沖縄大会優勝

 88年8月 全国高校総体ハンドボール男子で県勢初の全国制覇

 90年8月 全国高校総体空手道個人型優勝

 98年4月 コース制導入

 2004年4月 コース制一部改変

(QRコードから校歌を聞くことができます)