「うーとーとー」。毎年6月23日の慰霊の日が来ると、宜野湾市出身のタレントりゅうちぇるさん(24)はいつもツイッターにメッセージを投稿しています。75年前、この沖縄の地で悲惨な戦争が繰り広げられていました。「僕も学校の課題でおばあに戦争の話を聞いて。友達とかも『集団自決』(強制集団死)をして、でもおばあ自身も生きたいから逃げたって話を聞いたことがある」と言います。おばあが生き延びて今のりゅうちぇるさんがいます。戦争で悲惨な体験をしてきたからこそ、平和を守っていこうと努力してきたおじいやおばあたち大人に感謝をしながら、若い自分たちもそれを受け継いでいこうという思いがあります。「今ある平和が当たり前ではないんだと考えるきっかけが沖縄にはある」。戦後75年の今、改めて平和のリレーをつないでいかなければとの思いを発信しています。
考えるきっかけつくりたい
毎年、慰霊の日が近づくと小学校では平和学習があり、りゅうちぇるさんもひめゆり学徒隊の生き残りの方から話を聞いたり、「月桃」の歌を習ったり、給食でムーチーを食べたりしてきました。その中で家族に戦争体験のインタビューもしました。
悲惨な「集団自決」 おばあの話に衝撃
りゅうちぇるさんの母方のおばあは10代で沖縄戦を迎え、住んでいた那覇市から北へ北へと逃げる途中で「集団自決」(強制集団死)に巻き込まれかけました。
「おばあから初めて戦争がどんなだったか聞いたら、あまり話したがらなかったけれど、自分の友達も集団自決したという話をしてくれました。『(集団自決の中に)入ったら、あんたも』って言われて。そしたら中の一人が『なんでよ、苦しくなるさー、入れないけー』って感じで言われたって。何よりも捕虜になるのが一番怖いって思っていたみたい」。おばあの話を聞いて、悲惨なことを二度と起こさせないとの思いを強くしたそうです。
沖縄は75年前、アメリカを中心とする連合軍と日本軍が戦った第2次世界大戦の中でも、多くの住民を巻き込んだ地上戦が続き、一般の人たちもたくさん亡くなりました。中には家族や親戚同士で命を絶たせられる「集団自決」も各地で起こりました。おばあの話を聞いて「そんなひどいことがあったんだっていう衝撃だった。この沖縄で起きたことで、ひとごとじゃないし、知らない土地でもなくぴんときたし」と昔の戦争のことを身近に感じたと言います。
りゅうちぇるさんは高校を卒業して東京に出てきました。「びっくりしたことがいっぱいあって。慰霊の日をほぼ皆、分からない子たちで」。沖縄で当たり前だった平和への祈りが本土では当たり前でないことに驚きます。
「ちゃんと沖縄の大人たちが、あの悲しみを二度と繰り返さない、平和な沖縄の島を守っていくという強い思いをもって受け継いできてくれたおかげで、ほんとに沖縄の若い子たちは慰霊の日の存在も知って、当たり前のようにうーとーとーもするのが習慣になっています」と話し、沖縄で育って学んできた思いを継いでいきたいと考えています。
「東京の子たちって、戦争について昔のことだからって分からない感じの人が多いのがすごくギャップを感じた」からこそ、よく知らない県外の人たちにも「考えるきっかけをつくりたい」と、ツイッターなどで発信を続けています。
命を軽んじる時代 二度ときちゃだめ
りゅうちぇるさんは2018年、ぺこさんとの間に長男リンクくんが生まれ、お父さんになりました。ぺこさんの子育てを手伝おうと働き方も変えました。ぺこさんと2人の時よりも、リンクくんと3人になってもっと幸せな時間を過ごしています。
自分の子どもができたからこそよく分かることがあります。沖縄戦では壕の中で泣く赤ちゃんが殺されたことも知っています。「『敵に見つかるから泣く赤ちゃんを殺せ』と。人が人でなくなるのが戦争。その怖さは親になるとよけいに分かる」と話します。「お国のために命をささげる、赤紙(軍隊への召集令状)が届いて息子を軍隊に行かせて誇りだ―そんな時代は二度ときちゃだめだ」。そう静かに、強く思っています。
文・滝本匠 写真・當山幸都
~ みんなへ ~
沖縄では「慰霊の日」という日が1年に1度必ず訪れる。平和について考える日が絶対来るっていうのが一番大切。自分たちは当たり前だと思っている平和が、当たり前ではないんだなと考えるきっかけが沖縄にはある。昔のことで終わらせず、慰霊の日にはちゃんと正午にうーとーとーして、平和を考える場をずっと受け継いでいこう。沖縄はそれができている。僕たちの子どもの世代にも平和のリレーを責任もって回していかないといけないね。
りゅうちぇる 1995年、宜野湾市生まれ。 高校卒業後、原宿のショップ店員を目指して上京した。1990年代のアメリカコーデがお気に入りで、独特な原色ファッションも人気。 妻のぺこ(オクヒラテツコ)さんと仲良しカップルとしてテレビ番組でも活躍する。 新型コロナウイルス感染症の拡大防止で、家で楽しく過ごす様子をツイッターやユーチューブで発信してハッピーを届けている。