ページをめくると次々と現れる心安らぐ風景。沖縄で生まれて那覇でずっと過ごしてきたぼくは、少し戸惑ってしまう。この沖縄は、今ぼくが住んでいる沖縄と同じなんだろうかと。よく知っているようで知らないこの島じまのやさしさに、ため息ひとつ、ついてみる。
著者のながもとみちさんは、世界を放浪の末、2008年に沖縄に移住し現在、読谷に居を構え出版社などを手掛けるほか、浜比嘉島で古民家をリノベーションしたブックホテルを運営している。彼女の旅の続きであり、暮らしの場である沖縄に吹く海風の気持ちよさとは、いったいどういうものかしらと想像する。
4月1日から始まり、四季折々に寄り添いつつ3月31日まで、沖縄の生活文化、精神風土のエッセンスが、一日一ページ、365のコラムと写真で描かれている。伝統行事や新しい衣食住のアイテム、観光スポットや何気ない一日の風景、隣近所との安らぐ交流、お気に入りの琉歌などともに、いろんな光景がつづられている。また名嘉睦稔さん、池田卓さんらアーティストや歴史家の上里隆史さん、手仕事に従事する方やご近所の方の、現代の黄金言葉ともいえる、味わいのある語りが全編にちりばめられている。
リゾート地としての沖縄、新しいスピリチュアルな場所としての沖縄、古来からの豊かな風土を持つ沖縄。暦のリズムの中で、彼女が出合ってきた沖縄のライフスタイルは、ぼくもなじみのものでもある。そしてながもとさんは12月4日の「沖縄の光と闇」で、沖縄と観光について、思いを巡らせている。
「社会的、政治的課題を抱えながら、闇を光に変えてきた沖縄の歴史には、ひときわ心が強く揺れ動きます。沖縄という土地で、どんな光を観(み)て、どんな闇を観て、そこから『何』を受け取るのか」
ぼくは、その光にこそ立ちすくんでいるのである。
これは僕が知らない沖縄だ。でも確かに今、味わうことのできる沖縄でもある。このやさしくて新しい歳時記を手にして、そんなことを考えた。
(新城和博・編集者)
ながもと・みち 株式会社大切なこと研究所代表取締役。2008年、沖縄に移住。著書に「ていねいに旅する沖縄の島時間」など。