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<2023年末回顧・県内>1 出版 研究書の力作続々 住民運動の原点の記録も


<2023年末回顧・県内>1 出版 研究書の力作続々 住民運動の原点の記録も 2023年に発行された沖縄関係本
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 今年の発刊点数は200点余。例年に比べても刊行が少ないながらも光る書があったことも確か。その中から紹介していきたい。

 今年、最初に挙げたいのはネフスキー記念文集編纂(へんさん)委員会「子ぬ方星(ニヌパブス)」(2022ネフスキー記念文集編纂委員会)。1922年から宮古を訪れた東洋言語学者のニコライ・ネフスキーの事績を紹介し、ネフスキーを知るための宮古研究論文21編を収録している。論文は人物・社会・言語・民俗・神話・口承文芸・歴史と多岐にわたる。本書は宮古研究の先駆者と称されたネフスキーの功績を称(たた)えるだけでなく、ネフスキーが宮古に与えた影響なども記し、まさしくネフスキーによって宮古研究者が団結した感さえある。ぜひとも宮古のみならず、県内外の方々へ読んでほしい一冊である。

 次に名桜大学の琉球文学大系シリーズから、波照間永吉校注「おもろさうし下」(ゆまに書房)が刊行され「おもろさうし」が完結となった。波照間氏の50年余に及ぶ研究成果が文学・言語・民俗・歴史等として詳細な頭注に反映されており、これまでのオモロ研究の粋が結実したといっても過言ではないだろう。本書によっていにしえのオモロびとの世界観を味わってほしい。本シリーズは「球陽上」も刊行された。下巻も待ち遠しい。

 一般の方々が身近な存在の人に取材をして文章化した沖縄タイムス社編「沖縄の生活史」(みすず書房)は、庶民の歴史が生きた生活史であり、それが歴史を形づくってきたことを知らせてくれる好著。

 これから印象に残った本を挙げていく。金武湾闘争史編集刊行委員会編「海と大地と共同の力 反CTS金武湾闘争史」は、1973年に結成された「金武湾を守る会」の歩んできた草の根運動を詳細に記録した。沖縄の住民運動の原点と言える力作で、今年を代表する1冊と言えよう。原作・藤井誠二、作画・田名俊信「居場所をください」(世界書院)は漫画本で、今年を代表する1冊。不登校の問題は根深く、さらに沖縄には貧困や差別などの問題が横たわっている。本書は沖縄の現実と、打開しようと努力する人々の姿を描いている。

 仲里効「沖縄戦後世代の精神史」(未來社)は、思索者として独自の道を歩み続ける著者が縦横無尽に沖縄の戦後精神史を語っている。著者の駆使する、躍動する言語にも注目しながら読んだ。30年余にわたる調査の濃さに驚かされたのが石井宏典「都市で故郷を編む」(東京大学出版会)。備瀬のシクシキに始まり、備瀬出身の人々の足跡を追う内容は、著者の備瀬へ真摯(しんし)に向き合う姿勢が印象的。漢那瑠美子「絵でみる沖縄の民俗芸能」(沖縄文化社)は、沖縄が歌と踊りの島々であることを実感する好著。漢那の描く臨場感溢(あふ)れるイラストは、踊りが演じられる場へと私たちを誘ってくれる。観(み)たいと思いながら叶(かな)わない狂言を味わうことができたのは個人的に満足感を得られた。

 石原昌家「沈黙に向き合う」(インパクト出版会)。長年にわたって研究してきた著者が多角的な視点で捉えている。中城村津覇という地域に焦点を絞り、取材対象者との信頼関係を感じ、住民の証言が大切なことを教えてくれる久志隆子・橋本拓大「聞書・中城人たちが見た沖縄戦」(榕樹書林)。沖縄戦開戦直後に開局した放送局に関わった職員と社会情勢を、放送人としての反省から描いた渡辺考「沖縄 戦火の放送局」(大月書店)は初めて読む内容。体験者が少なくなる現状の中、オーソドックスでありながら、新たな沖縄戦研究の緒を感じさせられた3冊であった。

 生誕140年を迎えた宮良長包関連で三木健「宮良長包ものがたり」(沖縄時事出版)は、教育者として、音楽家として郷土や音楽に向き合った宮良長包の人物像がよく理解できる書。他に大山伸子「宮良長包作品解説全集」(琉球新報社)も今年ならではの書といえよう。しまくとぅばでは、我那覇祥子企画・ウエズタカシ絵「しまくとぅばで言えるかな?」(ジグゼコミュニケーションズ)で沖縄島・宮古・八重山の普段遣いの言葉を絵本にしている。子どもたちに是非、という内容。

 毎年旺盛な出版活動で私たちを魅了するボーダーインクは、仲程昌徳「沖縄文学の沃野(よくや)」で詩歌・散文・書館・劇作・月刊誌・同人誌を取り上げる。長年、沖縄文学を丁寧に掘り返す著者の姿勢に敬意を表したい。新城和博「来年の今ごろは」は、コロナ禍の中、那覇や首里を散歩しながら世の中を観察する。何気ない風景を切り取る内容は、著者ならではの世界。他にぎすじみち「オキナワノスタルジックストリート」、大滝百合子「野草がおいしい」、小原猛・文、太田基之・漫画「琉球怪談デラックス」、平野(野元)美佐「沖縄のもあい大研究」も印象に残った。

 40年前に発刊されて、今なお色あせない新崎盛暉他「第5版観光コースでない沖縄」(高文研)は大幅改訂。その沖縄に対する思いは、これからもずっと読み継がれていくだろう。

 最後に著者・書名を挙げて回顧の結びとする。大城洋平・写真、藤村謙吾・文「清ら星 伝統組踊の立方」(琉球新報社)、鈴木廣志他「琉球弧・海辺の生きもの図鑑」(南方新社)、鈴木耕太「組踊の歴史と研究」(榕樹書林)、池宮正治、前城淳子他「琉歌大観」(台湾大学)。

(宮城一春、編集者)


 みやぎ・かずはる 1961年那覇市生まれ。名桜大学「琉球文学大系」編集刊行事務局、編集者、沖縄本書評家。複数の県内出版社、印刷会社出版部勤務を経て現在に至る。沖縄関連のコラム・書評・論説などを新聞、書籍で発表。95年から本紙「年末回顧」を担当。


 コロナ禍のさまざまな制限が緩和され、以前の生活が戻りつつある。多様な文化活動が行われたこの1年を、分野別に振り返る。