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<2023年末回顧・県内>2 俳句 平和希求詠う句多く コロナ収束 句会など再開


<2023年末回顧・県内>2 俳句 平和希求詠う句多く コロナ収束 句会など再開 右から筒井慶夏「交叉」、たみなと光「寧日」、新報カルチャー瑞葉句会「若葉風」
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 コロナ禍が収束に向かい、これまで中止になっていた俳句大会や実際に顔を合わせての句会が再開された。県内俳句界も以前と同様に吟行や俳句研修、作句等に動き出した。

 今年は、コロナ禍で中止になっていた行事が4年ぶりに復活した。爬龍船(はりゅうせん)競漕(きょうそう)、大綱曳(つなひ)き、エイサー、空手の世界大会、首里城復興祭等の多彩な催しが各地で開催された。さらに、ロシアのウクライナ侵攻、イスラエルとハマスの戦闘、南西諸島の基地強化、辺野古の基地問題等の世界情勢に早急な停戦を求め、平和を希求する俳句や、地球環境の事象等に関する俳句が多く詠まれてきた。

 県内の俳句関係のこの1年を振り返ることにする。第48回沖縄県俳句協会の総会は2年ぶりに開催された。県俳協の功労賞は、西原洋子、神山教子、澤聖紫の3人が受賞した。琉球新報社主催の第44回遠藤石村賞は、島袋直子。俳壇賞は、大湾宗弘が受賞した。第16回小熊一人賞は、砂川紀子が受賞した。

 県俳協主催の第48回春季俳句大会は、県知事賞に《かすり干す藍のしずくや花菜風》神山教子、琉球新報社賞《遠浅の光からめて石蓴〓く》西原洋子、沖縄テレビ放送賞《畑返す一打一打に土の息》たみなと光が受賞した。協会賞の天賞は、前田貴美子が受賞。当日句会の天賞は、仲本清が受賞。県俳協の夏季大会(吟行句会)は中止となる。

 第48回県俳協秋季俳句大会は、2年ぶりの開催となり、県知事賞《夏草や土に還れぬ万の骨》太田幸子、沖縄タイムス賞《火の記憶飢えの記憶や沖縄忌》古波蔵里子、琉球放送賞《渓流の日の斑をどれり河鹿笛》金城かさねが受賞。協会賞の天賞は、たみなと光が受賞した。

 第21回沖縄忌俳句大会(県現代俳句協会主催)が那覇市で開催された。全国から214句の応募作品あり、大賞に《水汲みに行ったままなる土蛍》又吉なおが受賞した。

 第17回角川全国俳句大賞が発表され、選者賞特選に次の2作品が選ばれた。宇多喜代子選の特選(自由題)に《囀りは島いちばんの大きな木》筒井慶夏。宮坂静生選の特選(自由題)に《船遊び●■(ヘゴ)の木陰に折り返す》前田貴美子。都道府県賞「題詠・草」の沖縄県・沖縄タイムス社賞(上地安智選)に《虫籠を沈め小草のゆふつかた》前田貴美子。

 第23回たんば青春俳句祭において、細見綾子賞大賞に《丹波路へ近づく草の香しさ》辺野喜宝来が受賞した。

 俳句総合誌『俳壇』7月号特集「俳句と風土」の〈沖縄〉に、上地安智作品8句と短文が載る。「南島の風土」と題した短文で『沖縄・奄美南島歳時記』(瀬底月城著)を挙げ他と異なる自然や歴史等についての事項がよく示された書と述べている。その上で「二十一世紀になって南島の風土が大きく変化している」のをどう詠むかが課題であるとする。

 同特集の風土を詠んだ秀句50句は宮坂静生の選。県内作者の作品から、《うりづん南風海を縁に祖先たち》玉城一香、《立雲は大和・武蔵の卒塔婆よ》渡嘉敷皓太、《自決の海の火柱となり鯨とぶ》野ざらし延男、《熱砂ゆく祝女が被りし草の冠》眞榮城いさをが取り上げられた。宮坂はそれらの50句について書いたエッセーに「風土の俳句の魅力」について「うりづん南風」を例にこう書いている。「一語に込められた『祖先』の歓びを知ることによって海の民沖縄人(ウチナーンチュ)の『魂』を初めて知ることができる」と。同じ特集巻頭の高野ムツオの言葉で「風土を表現するのではない、風土で表現する」と強く述べている。

 「WAの会」の代表を長く務め、沖縄タイムスの俳壇選者でもあった岸本マチ子氏が7月29日に逝去。現代俳句協会賞。詩活動で第1回山之口貘賞の受賞者でもある。「沖縄歳時記」刊行など、県内外の俳句活動に貢献なされた。ご冥福を祈りたい。

 各俳句結社の賞は、創刊15周年記念「りいの」俳句賞を辺野喜宝来が受賞した。

 句集出版は、筒井慶夏が第1句集『交叉』を上梓(じょうし)する。対馬康子(天為)の序文が寄せられている。たみなと光が第2句集『寧日』を上梓。太田幸子(琉球俳壇選者)の鑑賞の跋文(ばつぶん)が掲載されている。新報カルチャー俳句教室(たみなと光講師)瑞葉句会(12名)の第2合同句集『若葉風』が出版された。

 各俳句総合雑誌投句の特選・推薦・秀逸・佳作等の入選者は県俳協会員を主に順不同で、筒井慶夏、仲間文子、平良幸子、石田慶子、新里律子、平良喜美子、澤聖紫、百名温、渡嘉敷皓太らが記載された。

 コロナ禍を乗り越え、伝統行事等を通して地域との交流を深め、多様な社会情勢に対する批判精神を高めて俳句に挑み、多くの句が詠まれた年となった。

 本稿は、沖縄県俳句協会会員の動向を主に記した。誌面の都合上、県内俳句界の十分な報告にはいたらず割愛した。

※注:〓は手ヘンに「蚤」
※注:●は木ヘンに「沙」
※注:■は木ヘンに「羅」

(敬称略)
(上運天洋子、県俳句協会副会長)


 うえうんてん・ようこ 1944年名護市生まれ。2005年作句開始。08年結社「風港」入会。10年「風港」同人。18年「風港」幹事。14年「中村秀雄・阪子記念」俳句実行委員長。琉球俳壇賞。小熊一人賞。県俳協功労賞。俳人協会会員。県俳句協会副会長。