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古典の歩み、様式守る 新たなファン獲得にも 新作組踊<新時代・国立劇場おきなわ20年>8


古典の歩み、様式守る 新たなファン獲得にも 新作組踊<新時代・国立劇場おきなわ20年>8 薩摩守(右)が登場した、鈴木耕太作の新作組踊「鶴亀の縁」=2023年1月、浦添市の国立劇場おきなわ
この記事を書いた人 Avatar photo 田吹 遥子

 国立劇場おきなわが開場して20年、組踊では多くの新作が生まれ、同劇場でも上演されてきた。2019年に新作組踊戯曲大賞を創設し、大賞の作品を上演している。

 新作組踊の先駆けと言えるのは、作家の大城立裕が玉城朝薫の「朝薫五番」に倣って手がけた「新五番」だ。その中で沖縄戦がテーマの新作「花の幻」は議論を呼んだ。幸喜良秀が演出した10年と12年の公演では、銃声などの効果音や激しく点滅する照明が使われ、地謡の音楽のみが流れる古典組踊から見ると、斬新な演出になった。

 「組踊立方」人間国宝の宮城能鳳は、弾に撃たれて死んだ人物が舞台に残る展開に特に言及する。「死んだ人を舞台に残すのは組踊ではない。組踊では舞台上で戦っても幕内で討ち取られたという展開になる」とする。
 県立芸大芸術文化研究所准教授の鈴木耕太も大城作品を「沖縄芝居に寄った言葉が多く使われている」とした上で「大城さんは戦後すぐの芝居小屋も見てきている。組踊や歌劇、沖縄芝居を全部包括して新作組踊という立場で書いたと話していた」と説明した。

 どこまでが組踊なのか、組踊とは何か。

 多くの人が抱いてきたであろう疑問に宮城が答えた。「唱えや舞踊を基本とした歩み、組踊の様式を守ることが大事だ」
 宮城が振り付けと構成を担当した大城作の組踊「真珠道(まだまみち)」は役人と農民の娘の悲恋を描く。古典組踊では登場しない平民の女性が登場する点などに新しさがあるが、唱えや所作、演出は様式に即している。

 鈴木はまさに「組踊とは何か」を追究するべく、自ら新作を手がけてきた。新作創作の過程や地域の組踊の研究から「琉球古典語を使うこと、場面に合わせて決まっている組踊の音楽様式を崩さないこと」が様式と見る。その上で「様式はあるがガチガチに縛る必要はなく、(様式の順守度合いで)色を濃くするか薄くするか、幅を持たせていいと思う」とも語った。

 鈴木作の「鶴亀の縁」は同劇場の第2回新作組踊戯曲大賞で大賞を受賞し、23年1月に上演された。組踊の唱えや場面音楽の様式を守りつつも、薩摩(さつま)の役人を登場させて、せりふを大和言葉で七五調にしたり、立方が舞台で歌三線を披露したりと新味も盛り込んだ。「古典を知ることで古典にないことも知ることができる。新作と古典は両輪と言うが、古典を学ばないと新作は生まれない」

 新作は古典作品を多く鑑賞した“通好み”でもある。だが、鈴木は新作を「組踊を知る入り口にしたい」と見据える。

 古典の学びから生まれた新作組踊が新たなファンをつかみ、古典への理解が広がる。沖縄の伝統芸能を次代につなぐため、新時代の劇場に求められるサイクルかもしれない。
 (田吹遥子)
 (おわり)