15日夜、国立劇場おきなわに併設する組踊公園。火の粉が舞い始め、パンッという音と共に仕掛けが開くと、縁起のいい「宝物」の絵柄が次々と現れた。暗夜に花火の明かりが注ぐと、会場からは拍手が上がった。1866年の尚家文書「火花方日記」に記載されていた、琉球王朝時代のからくり花火「玉火」が復元された瞬間だ。劇場の調査研究で実現した。
劇場では、公演の上演だけではなく、沖縄の伝統芸能に関する調査研究も担う。過去に上演されたり、記録はあるが未上演だったりする作品や、舞台の研究と復元(上演)のほか、芸能に関わる歴史の研究などを実施する。研究公演など主催公演の記録などをレファレンスルームで閲覧できるほか、企画展や観賞記録講座なども開催している。
これまでの調査研究の中心的な人物が茂木仁史調査研究専門嘱託員だ。2023年3月まで調査養成課長だったが、定年退職した4月以降も関わる。茂木嘱託員は、学生時代から役者や大道具などの仕事に携わっていた根っからの舞台人。東京の国立劇場で企画を担当していた頃に琉球舞踊と出合った。「伝統芸能は一通り分かっていたつもりだったが、琉球芸能はほかの民俗芸能とは異質。引かれるものがあった」
東京でも琉舞や組踊公演を企画した。国立劇場おきなわが開場する際、立ち上げに関わりたいと切望したがかなわず、7年を経た2011年に調査養成課長として沖縄に赴任した。県立芸術大学大学院博士後期課程を修了。専門とする芸能の舞台研究も積み重ね、23年には本田安次賞を受賞した。
劇場の研究は、調査の成果を実際に上演できることが強みだ。茂木は「公演に役立てるために研究している。上演してみて初めて分かることもある」とその意義を語る。「伝統芸能の世界は師匠から弟子へ日々伝承されていくが、舞踊や作品の大本がどこか、本質は何かを知っておきたい」
組踊初演300年の節目だった2019年10月には、300年前の首里城の舞台の大きさや構造を復元し、組踊「執心鐘入」を野外上演した。その前には能や文楽との関係性などを紹介する講座も開き、理解を深めた。この時から琉球王朝時代のからくり花火5基の復元を始め、冒頭の「玉火」で全ての復元を終えた。
研究内容を残すため、映像化はもちろんだが、出版という形を取ることが大事だとも強調した。「舞台は演じた瞬間で終わってしまう。活字に残し、さらに出版という形で流通させるとより広く、長く残るはず」
一方、茂木嘱託員は課題を指摘した。「研究機関として人を育てる環境になっていない」。伝統芸能をつなぐため、安定した研究体制の構築が必要になりそうだ。
(田吹遥子)
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