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新作上演で古典輝く 幸喜良秀「若手にチャンスを」 芸術監督の仕事(上)<新時代・国立劇場おきなわ20年>4


新作上演で古典輝く 幸喜良秀「若手にチャンスを」 芸術監督の仕事(上)<新時代・国立劇場おきなわ20年>4 「新しいものが生まれると古いものが輝く」と新作の重要性を語る幸喜良秀=1月25日、恩納村
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 国立劇場おきなわでは、2009年から芸術監督を導入し、琉球芸能の演出という分野にも大きな影響を与えた。初代の芸術監督を務めた演出家の幸喜良秀(85)は「(琉球芸能の分野でも)演出という言葉がごく普通に使われるようになった」と振り返る。

 幸喜は、大学卒業後の1961年に演劇集団「創造」を結成し、演出家の道を歩み出す。知念正真作「人類館」などの演出を担う。87年設立の「沖縄芝居実験劇場」では小説家の大城立裕らや芝居役者の真喜志康忠、大宜見小太郎らと共に沖縄芝居の新境地を切り開いた。国立劇場おきなわ開場後は、大城立裕が手がけた「今帰仁落城」や嘉数道彦作の「十六夜朝顔」などの新作組踊の上演や一部演出を手がけてきた。

 これまであまり演出の概念がなかった組踊作品で、演出を手がけることは挑戦だった。「僕には先生もいないし先輩もいない。本を読んで大和に行って勉強した」。舞台の下手と上手、所作の持つ意味。古典では様式として継承されてきた表現の意味を丁寧にそしゃくし、演出や演技指導に落とし込んだ。

 娘の愛(かなし)は父が働く姿を見てきた。「大城立裕先生と夜中まで電話やファクスでやり取りをしていた。家族よりも長く話していたはず」と懐かしむ。「父は沖縄の舞台表現にかける思いがとても強いんです」

 幸喜は古典だけでなく新作も上演した理由について「新しいものが生まれると古いものが輝く。古典の素晴らしさを知るには新作の素晴らしさを同時に知ることが大切」と強調する。「新しい作品ができたら、頻繁に上演しないとしおれてしまう」と再演を重ねることで作品が育まれることも合わせて指摘する。

 芸術監督を務めた際は、演者も演出も若手を多く起用してきた。「僕たちが若い頃はチャンスがなかった。大胆に、積極的に若い人たちにチャンスを与えた」。特に、後に芸術監督を引き継いだ嘉数道彦に託し、印象に残っている作品がある。「フランスの劇作家モリエールの作品をうちなーむんにして」と提案し、嘉数は喜劇「ペーちんの恋人~モリエール『守銭奴』より~」の脚本・演出を手がけた。「守銭奴の面白さを沖縄にもってきた。その優れた作家精神がうれしかった」と思い出し、ほほ笑んだ。

 「博物館は人間が生き抜いてきたことを今の人に問いかけていると感じるが、劇場は古いものと新しいものをしんしんと感じる場所だ」と幸喜は言う。「劇場に人がもっと通えるようになれば」。劇場の未来を担う若手の感性に期待を込めた。

 (田吹遥子、伊佐尚記)