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次世代へ、常に挑戦 嘉数道彦「観客が舞台育てる」 芸術監督の仕事(下)<新時代・国立劇場おきなわ20年>5


次世代へ、常に挑戦 嘉数道彦「観客が舞台育てる」 芸術監督の仕事(下)<新時代・国立劇場おきなわ20年>5 芸術監督時代や演出した作品を振り返り「観客が舞台を育てる」と語る嘉数道彦=1月25日、那覇市首里当蔵町の県立芸術大学
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 2013年、国立劇場おきなわの芸術監督を幸喜良秀から引き継いだのが当時33歳の嘉数道彦(44)だ。嘉数は、実演家として活躍する傍ら新作組踊や沖縄芝居の脚本・演出を担う注目の若手だった。着任してからの9年間、新作の演出や上演のほか、演者と観客の距離を近づけるイベントなどさまざまな企画を展開した。

 国立劇場おきなわが開場した頃、県立芸術大学大学院で組踊を学んでいた嘉数は、修士演奏に臨んでいた。挑戦したのは当時は珍しい新作組踊だ。「古典に関心がない人にどうやって見てもらうかを考えた時、新作の力が必要と感じていた」。修士演奏で披露した「宿納森(すくなむい)の獅子」は、嘉数の脚本で、06年6月の研究公演で上演された。

 新作の創作に意欲的だった嘉数が演出を意識するようになったのは、大城立裕作の新作組踊「山原船」など、幸喜良秀演出の作品に出演した時からだ。立方で出演した嘉数に対し、幸喜は稽古で感情表現を求めた。感情は抑制的に演じることが基本とされる組踊で、嘉数は「自分の感情をどう乗せるか、考えさせられた」。

 その後「さかさま執心鐘入」など大城立裕作の演出や、芸術監督になった後は長編の新作組踊「初桜」脚本と演出など、次々と手がけた。

 19年には、沖縄戦を舞台にした大城立裕作「花の幻」の演出を担当した。さかのぼること7年前の12年、幸喜演出による「花の幻」に嘉数は立方として出演していた。銃声や爆発の効果音、随所に照明という演出に「正直嫌で。組踊と言えるのかと疑問だった」。のちに芸術監督として再演を決めた。「どうしたら組踊になるか、好奇心もあったのかも」と嘉数は演出に挑んだ。その演出では、爆発の音を全て沖縄の楽器で表現した。

 古典芸能の次世代への継承と全国的な認知度の向上―。芸術監督として、これらの課題にも向き合った。初心者向けの「観賞教室」シリーズを沖縄芝居や琉球舞踊まで拡大。「組踊版シンデレラ」を自ら創作し、組踊の普及にも努めた。芸能ファン感謝デーも開催した。「二童敵討」など組踊作品のその後を描き、好評を得た。同劇場と県外の劇場共催で組踊公演も始めた。これらのほとんどが今も引き継がれている。

 県立芸術大学で准教授を務める今も、さまざまな作品で演者や脚本・演出を担う。そんな嘉数にとって「観客アンケートは大きな宝物」だ。好評価は当然うれしいが、批判は「ずっと持ち歩いていくもの」だと言う。「いただいたコメントは年月を経て響く時がある。私たちを育て、次に作る舞台を育てることになる。観客も一緒になって芸能をつないでいきたい」。嘉数の挑戦は続く。
 (田吹遥子)
 (次回は17日掲載)