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<書評>『在日米軍基地 米軍と国連軍、「2つの顔」の80年史』 多国間安保へ半歩先読む


<書評>『在日米軍基地 米軍と国連軍、「2つの顔」の80年史』 多国間安保へ半歩先読む 『在日米軍基地 米軍と国連軍、「2つの顔」の80年史』川名晋史著 中公新書・1210円
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 国連憲章は侵略や平和の破壊に対して、「国連の統制下」で強制行動を止めるための軍隊設立を規定している。その軍隊は加盟国が提供することになっている。だが、朝鮮国連軍は国連の統制下ではなく、米国が「指揮権を持つ多国籍軍」なのだ。

 日米安保条約下で米軍は日本の基地を使用し、朝鮮国連軍の一員としても基地を利用できる。一方、国連軍に参加し、日本との間で国連軍地位協定を締結する国の軍隊も、この国連軍の任務に限り、日本の指定する米軍基地を兵站(へいたん)支援などのために利用できる。同地位協定の対象は主に豪州、英国、カナダなどの軍隊で、他にフィリピンやタイから派遣される軍人である。本書は、時に国連軍に変わることに着目して、米軍の持つ「2つの顔」を明らかにする。

 なぜ国連軍なのか。本書では米国との二国間同盟以外に、英国や豪州の軍隊と自衛隊との間で、物資や人員の相互移動を可能にする「準同盟」関係が始動しつつあると指摘する。まさに国連軍地位協定を軸とした動きが、これからの多国間安全保障関係への橋渡しであると見立てている。韓国では国連軍の再活性化として、日本に照準を合わせた日米韓の集団防衛論が15年以上前から議論されてきた。ハブアンドスポークのアジア太平洋戦略から、同盟・友好国がそれぞれの軍事力を強化し、米国を含めて相互に結ばれたネットワーク戦略にしたい米国の期待に沿う。本書は時代の半歩先を読んでいると言えよう。

 第1章から5章は日本にある国連軍司令部の歴史を記す。ただ、第6章の普天間基地の移設問題への分析は粗い。嘉手納基地やホワイトビーチと共に国連軍基地に指定された普天間飛行場の移設について、本書は当時の日米交渉の際に、代替施設が国連軍基地として指定されなければ合意には達しなかったと読み解く。普天間と同様に「長い滑走路」を持つ飛行場が国連軍基地として不可欠だったからという。現在、建設が進行する辺野古での飛行場は「短い滑走路」が2本である。米軍の求める必要基準は政治的に変化する。交渉には選択肢があるということだ。 

(我部政明・国際政治学者)


 かわな・しんじ 1979年北海道生まれ。東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授、専門は米国の海外基地政策。主な著書に「基地の政治学」や「基地はなぜ沖縄でなければいけないのか」。