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<書評>『宮古歌謡の研究 続2 ―歌謡に謡われた地名・場所―』 歴史空間の一端明らかに


<書評>『宮古歌謡の研究 続2 ―歌謡に謡われた地名・場所―』 歴史空間の一端明らかに 『宮古歌謡の研究 続2 ―歌謡に謡われた地名・場所―』新里幸昭著 自費出版・4510円
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 地名には、その土地で生きる人々の生活様式や世界観が投影されている。特に歌謡に謡われた地名と場所を探ってみると、人々の生活空間から生まれ育まれたという強い要素に、住民の世界観が付加され生成されてきたものと理解される。本書は、その土地に住む人々の生活の産物であり、生活空間や世界観が表象された地名と場所をひもとくことで、歌謡の意味をより深く理解することを追求した労作である。

 本書では狩俣と池間を軸に『南島歌謡大成III 宮古編』の中から137篇の歌謡、308地点の場所・地名が取り上げられている。特に読み手を引きつけるのは、自然(岬名・礁名)、集落、御嶽(祭祀(さいし)空間)、屋号などの地名・場所が取り挙げられ、その場所の特性がイメージできるように丁寧に解説されていることである。また巻末には、出典文献の解題も添えられており、初学者にも親切な編集内容となっている。

 以下、評者の専門分野(歴史地理学)に引き寄せて興味をそそる地名・場所を一部列挙してみると、まず、いきまざき(池間崎)、いらびじ(伊良干瀬)、やぴし(八重干瀬)などの地名・場所が挙げられる。これらを織り込んだ歌謡からは、歌謡の読み手の自然(地形)に対する「まなざし」を通して、生活者の心象風景を感じとることが可能となる。

 また、祭祀に関わる地名・場所が目を引く狩俣では、あーイっぞー(東門)、いなイぷや(内海大家)、シまだキがぎョらいん(島抱きの神座敷)など、祭祀空間と生活空間とが融合していた場所の性格が、歌謡を通して浮かび上がってくる。

 このように本書では、歌謡に謡われた地名と場所をひもとくことで、宮古の歴史空間の一端が明らかにされている。それは『宮古島旧記』などの古文献の検証に加えて、古老からの丹念な聞き取り調査により、各文献の隙間を埋める地道な作業によるところが大きい。琉球・宮古の歌謡そのものはもちろん、歴史や地名に関心のある方にもぜひ手に取っていただきたい一冊である。

 (崎浜靖・沖縄国際大教授)


 しんざと・こうしょう 1942年大宜味村生まれ。教諭として中学や高校に勤務。大宜味村史の編さんにも携わった。主な編著書は「宮古島の神歌」「南島歌謡大成III宮古編」など。