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<書評>『沖縄における門中の歴史民俗的研究』 差異・変化絡む制度の全体像


<書評>『沖縄における門中の歴史民俗的研究』 差異・変化絡む制度の全体像 『沖縄における門中の歴史民俗的研究』小熊誠著 第一書房・5500円
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 奄美諸島から八重山諸島までの琉球弧において、門中は沖縄諸島(沖縄本島とその周辺離島)に限って分布する制度である。

 とは言え、その沖縄諸島においてさえも、旧身分による差異や地域的な差異などがあるばかりでなく、通時的な変化、および今日的な社会変化への対応に伴う変化といった諸問題が複雑に絡んでいるのが門中制度なのである。

 序論では、その複雑な対象を捉えるために「本書の研究は歴史的・民俗的な視点で行う」とし、「形態の異なる門中を全体的な視点で」、しかも「日常生活の文脈」において明らかにしたい、としている。

 本論は九つの章を三部に分けている。第一部では、戦前の民俗学的な沖縄研究から戦後の社会人類学的な研究までを鳥瞰(ちょうかん)した上で、門中研究に絞った研究史の回顧を行っている。

 著者なりの興味深い見方が提示されている。例えば、戦前の柳田国男の研究視点からは琉球と中国の関係は捨象されているが、戦後それが修正されるのはなぜか、といった具合である。

 第二部では、近世の琉球における士族の門中を扱っている。文献資料によって、日本とも、中国とも異なる、琉球士族門中の特徴を浮き彫りにしている。

 中国通の著者ならではの分析が、随所に見られる。圧巻は、琉球士族の門中の基本は中国姓と名乗頭の一致であるとする観点からの、中国的な同姓不婚に関する詳細な分析である。

 第三部は、今日における門中の複雑で多様な実態を明らかにしている。第二部と対照的に、民俗的研究である。百姓系門中と士族系門中、および屋取系門中に分けて論述している。

 門中墓が見られない地域における事例を提示し、かつ民俗宗教的なレベルで結びつく門中の関係まで取り上げている。

 琉球弧における民俗文化は、地域的な差異を丹念に拾い上げていかないと、なかなか全体像が見えてこない。本書は沖縄諸島だけに限らず、琉球弧全体の民俗文化の研究に資する、貴重な労作と言えよう。

(津波高志・琉球大名誉教授)


 おぐま・まこと 1954年生まれ、横浜市出身。沖縄国際大文学部や神奈川大歴史民俗学科教授を経て、2022年より神奈川大学学長。主な著書は「〈境界〉を越える沖縄」や「日本の民俗12 南島の暮らし」など。