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<書評>『平敷屋朝敏の周縁』 豊富な知識と徹底した散策


<書評>『平敷屋朝敏の周縁』 豊富な知識と徹底した散策 『平敷屋朝敏の周縁』仲本瑩著海ホタル舎・3300円
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 何という本だろう。本書の特徴を、何と言えばいいか。仲本はサブタイトルに「論考・エッセイ集」と名付けている。足・散策と文献から生まれた作品群である。随所で驚嘆し感動した。

 書かれた分野は「I 末吉の滴り」「II 平敷屋・友寄事件の周縁」「III 平敷屋朝敏拾遺」「IV おきなわ散策」「V 沖縄伝統空手」「VI 琉球八景」「VII 東苑八景」「VIII 戦責告白をめぐって」の章に編集されている。それらの内容は、文学、漢詩、歴史、芸能、組踊、空手、民俗、地理、宗教などにまで及び、481頁の大冊となっている。私は、その豊富な知識と写真群に感服した。

 凄まじい引用文献数である。例えば「平敷屋・友寄事件の周縁(3)」では、『おもろさうし』から『琉球國高究帳』、『琉球國由来記』など5冊(96頁)が目立つ。さらに、同「周縁(5)」での代表は、『琉球國志略』、「冠船躍方日記」、「戊戌冊封諸宴演戯故事」、『中山伝信録』など(125頁)である。

 私にとって本書の圧巻は「II 平敷屋・友寄事件の周縁」で研究され、整理、図化された、羽地朝秀、識名盛命、尚敬王、田里朝直、玉城朝薫、平敷屋朝敏などの家系相関図や、「歴代琉球音楽系譜抄」(117頁)であった。よくも多くの家譜から調べたものだと思う。

 一方、この大冊はとことん歩き、現場に実際立って感得し探求したエッセイ群から成り立っている。著者は、うるま市勝連平敷屋はもちろん、読谷村、那覇市、浦添市、果ては多良間島までフィールドワークを徹底している。多くの作品に「出かける」(63頁)、「歩いてみた」(355頁)などという言葉が出てくる。那覇市では、驚くべき場所まで知っているものだ、と感心してしまう。

 一点だけ、1879(明治12)年の沖縄県設置を「廃藩置県」と表記(25頁、54頁、320頁等多数)するのは止めたいものだ。琉球の歴史観や思想の最前線は、もう「琉球併合」や「廃琉置県」の表記へ変化している。琉球の歴史や文学、芸能、空手、信仰などの研究と実践は、本書のレベルを踏まえて先へ進む必要があろう。

 (高良勉・詩人、沖縄大客員教授)


 なかもと・あきら 1949年、南城市(旧玉城村)生まれ。88年「詩と思想」新人賞。主に「脈」、詩誌「あすら」を中心に小説、詩、俳句、評論作品を発表している。平敷屋朝敏研究会会員、共著に「平敷屋朝敏」がある。