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<書評>『進藤榮一著作集~地殻変動する世界 第1巻』 日米関係の在り方問い直す


<書評>『進藤榮一著作集~地殻変動する世界 第1巻』 日米関係の在り方問い直す 『進藤榮一著作集~地殻変動する世界 第1巻』進藤榮一著 花伝社・5500円
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 対米自立と東アジアとの共生を一貫して唱えてきた、気鋭の国際政治学者である進藤榮一氏の待望の著作集3巻の初刊本である。国際関係の視点から、日本の敗戦・占領史・戦後史を再検証した本書は、「第二の敗戦」に直面する現在の日本と日米関係の在り方を問い直すために不可欠な歴史的作品といえる。

 著者は「歴史家の責務とは“もう一つの歴史(辿られなかった道)”、未発の可能性をさぐることにある」との問題意識と、米国寄りの一方的な単線的歴史観を排した複合的な立場から、日米双方の守旧派と改革派の錯綜(さくそう)した熾烈(しれつ)なせめぎ合いに焦点を当てている。その上で、原爆投下から敗戦・占領、憲法制定過程から沖縄の本土分割、日米安保成立の起点から終点に至る歴史過程の虚構と真実を明らかにしている。

 沖縄との関連では、日本に潜在的主権を残したままでの米国による琉球諸島の軍事占領継続という「(昭和)天皇からのメッセージ」はもちろんのこと、米国による単独の日本間接占領という類いまれな“歴史の幸運”は、あくまでも沖縄の分割占領とアジア諸民族の分断という限りない悲劇を前提に成立したものであった。また、片面講和と安保(武装化)は冷戦状況によって運命づけられた唯一の道であり、全面講和と中立(非武装化)は、外交の拘束条件を無視した「全能の幻想」だとする見方は、ある意味で神話であり虚構である、という重要な指摘をしているのが注目される。

 日米安保体制下での「戦争のできる国」への変貌、「第二の敗戦」と「新しい戦前」の到来がささやかれる今日。民主化・脱軍事化・脱植民地化という未完の三つの戦後改革の達成、そして対米従属からの脱却と東アジアとの共生を実現するためにも「いったい、八・一五の敗戦を経た“戦後日本”とは何であったのか」。「なぜ沖縄がかつて日本から剥奪され、南千島がいまだ分断されたままであるのか」という著者の重い問いに真摯(しんし)に答える責務が、私たち国民と市民社会の側にあるのではないだろうか。

 (木村朗・鹿児島大学名誉教授)


 しんどう・えいいち 1939年北海道生まれ。筑波大名誉教授。専攻はアメリカ外交、国際政治経済学、公共政策論。主な著書に「現代アメリカ外交序説」「アメリカ帝国の終焉 勃興するアジアと多極化世界」など多数。